オルシーラ姫の疑問
騎士団のオルシーラ姫は、教団の使徒家の跡継のユミルに質問します。
自分より格下の家に謙る(へりくだる)のはいかがなものかと。
それに対するユミルの答えは…
「ここに来てからずっと、気になっていたことです。
カドラス家の方々は、この城にあって、どうにも……セヴレイルの方々に謙っておいでのように私には見えます。
前身の身分はともかく、現在使徒家としてはカドラスの方が格上なはず。
セヴレイルやベルンフォードの下風に立つということは、序列を乱すことになりかねないのでは?
何より……ユミル様ご自身は、それを不服と思われないのですか?」
何とも、突っ込んだ質問だと聞いていたシノレは思った。
自分の立場は分かっているだろうに、こうも直球で聞いてくるとは、そんなに気になったのだろうか。
まあ、彼が口を挟めることでもなかったが。
教団も大概だが、大公の宮廷はそれに輪をかけて序列に厳しいと聞く。
そうした秩序の中生まれ育った姫君には、看過しがたい異質なことなのかもしれない。
だが、それを言って分かってもらえるものか。
恐る恐る窺う。
新参者かつ第三者のシノレからしても、これは少しでも答えを誤ると大事になるという気がしたのだ。
ましてここは人気がないとはいえ、セヴレイル側の陣地である。
「思いませんね」
だが金髪の少年は、きっぱりと首を振った。
「前身の身分は今の僕たちを形作る一部です。
実際、貴族筋の方々の財力と人脈無くしてここまでの発展はなかったでしょう。
貴族の力に助けられた以上は、その精神性も尊重されるべきです。
そうでなくても成人すらまだの末輩の僕が、日夜教団に貢献なさっているレイグ様を尊重するのは当然のことです」
そこまで一気に言い、更に強い声で言い募る。
威圧的な感じはしないが、一切の曇りのない物言いだった。
「また、謙ると仰りましたが、それは少々語弊があります。
確かに我がカドラス家は貴族筋の方々を敬いますが、それはあくまで形式的な敬意であって忠誠ではありません、我らが忠誠を誓う相手は唯一人、猊下に他ならないのですから。
それはレイグ様も、ご理解下さっていると思います。
つまり、そういうことです。
十人十色という言葉があります。
カドラスとセヴレイルはこれで良いのです!」
はきはきとした迷いのない口調を崩さず、ユミルはそう締めくくった。
それにオルシーラは何を思ったか、優雅に頭を垂れて謝意を示す。
「……そうなのですね。浅学非才の身で失礼を申しました。
お答え下さり、どうもありがとうございます」
オルシーラも、静かに微笑んでそう答えた。
中々攻めた質問だったと思うが、真意をその表情から読み取ることはできなかった。
一応、主人公はシノレなのですが…
オルシーラは主人公をガン無視しています。




