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令嬢の処世術

セシルは貴族令嬢の行儀見習いで学ぶべきことを語ります。

将来に向けた人脈形成も。

この世界の令嬢は様々な人間関係の中で人生をかけて闘っているのです。

 それは机上のものではない、実際の処世術である。

泣き方、謝り方、引き際、攻め時……実家でも教わるそれらを、更に磨き上げるのだ。


「そ、そうなんですか……ということは情報を集めたり、操ったりということも?」


「ええ、勿論です。

そして、将来確固たる地位を築くことを夢見るなら、それだけでは不足です」


 本当に優秀な娘は、ここで未来の味方を作って布石を打つ。

同じ行儀見習いとして仕える令嬢、やって来る客人などは、将来的な情報網や相談相手として機能する。

そして最も重要なのは勤め先の家の者たち――特に「奥様」「お嬢様」として仕える女性たちは、味方にしておけば将来の縁談、後見などで助力してくれる守護者になりうるのだ。

誰に仕え、誰を支持し、どこにどれだけ情報を渡すか。

その感覚を磨くことが必須だった。


 家同士の繋がり、そしてそれらが交錯する社交界では、人脈形成が命である。

実践経験を積み、将来に備えるにあたって、行儀見習いはどうしても必要なことであった。


 セシルは実体験を元に、極度にえげつない部分は省きながらも、行儀見習いとはどういうものかをシノレに説明した。

その間シノレは濁った目を白黒させて聞いていた。

何か異様な迫力を感じて、口を挟むこともできなかった。


「我が家は歴史の浅い成り上がりです。

それが尊い家の方々にお仕えし、社交のいろはを教わるのですもの。

恩があり、上下があり、見習い期間を終えて社交の場に出てからも、その関係は継続します……

そればかりか、母や叔母や祖母がお世話になった家の方に申し付けを受けることもありますわ」


 セシルは微笑んで、背筋を正し、体の前で手を合わせた姿勢で立つ。

その揺るぎない姿は先程のことや、生臭い裏事情などまるで窺わせない。

不変の真理でも口にしているかのような凛とした姿だった。

別に怒りを浮かべているわけでも、取り乱しているわけでもないというのに、シノレはそれにやや気圧された。

今も笑顔の裏で、この前聞いたような叫びを轟かせているのだろうか。令嬢って怖い。


「……それは、何と言うか、大変ですね……」


「良くあることですわ。このようなこと、殿方はお気になさいませんよう。

それよりも、ありがとうございます。状況から察するに、勇者様がシオン様を呼んできて下さったのでしょう?」


「呼んだと言うか、まあ、はい……」


 シノレは若干躊躇ったが、口を開く。

迷いながらも口に出そうとしたのは、らしくもない励ましの言葉だった。


「まあその……色々と大変なことも多いのでしょうが、あまり気負うことも……」


「シノレーー!!こんなところにいたんですね!」


 そこに聞き覚えのある声が響いた。

元気な足音とともにやって来たのはユミルだった。

駆け寄ってきた少年は立ち尽くす令嬢に「あ、セシル嬢。御機嫌よう!」と会釈し、シノレに向き直った。


「そろそろ行きましょう!クレドア家の竪琴を運ぶ時間です!!」


「…………あ、はい……では失礼します、セシル様」


「今夜は竪琴を貸して頂きありがとうございます!僕らも責任持って運びますからね!」


「……はい。お二人共、お気をつけていってらっしゃいませ。

数ならぬ身ですが、今夜の演奏の成功を願っておりますわ」


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