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露台の上の少女

シノレは露台の上から激しい思念を飛ばしている少女に話しかけます。

話を聞くというシノレに対し、少女は…

『面倒くさい!!いっそ全てが面倒くさい!!一つも失敗できないのに、どうして次々面倒事が振ってくるのよ!!』


「…………」


 あまりに大きなそれに、頭の奥がきーんとした。

数秒掛けて衝撃から立ち直ったシノレは、そろりと足を伸ばす。

今の思念、どうやら上から振ってきたようだ。


魔力を使うと確かに、近くにいる相手の感情とか思考が一部伝わることがあるが。

ここまで明瞭に聞こえてきたのは初めてだったので驚いた。

一瞬本当の大声かと思ったほどだ。


(というか……)


 まだまだ暑い日暮れだというのに、冷たい汗が浮かんでくる。

それは聞き覚えのある声だった。

もしかしなくてもこれ、つい先日隠れて鬱憤を叫んでいたどこぞのご令嬢ではないか?


 先日の一件で警戒したのか、声には出していないようだが。

他を突き破って流れてくるような、大音量の思念だった。

それだけ込めた感情が強烈なのだろうが……これでは他の何も聞こえない。

音は伴わないものの、魔力的にはかなりの騒音だ。

発生源は丁度真上、露台に佇む誰かであるようだった。


目を上げても、そこに移るのはのっぺりした石の土台だけだ。

強烈な思念を撒き散らす誰かは、多分その上に立っている。

魔力を使って探れば相手のことが分かるだろうが、そんな厄介事への第一歩を踏み出したいわけもない。


「……あー……えっと……あの、大丈夫ですか?」


 それでも下から声を掛けたのは、どうしてだったのだろう。

孤軍奮闘中らしき少女に同情したのだろうか。

どうやら吐き出せる相手もいなさそうだと、何かの弾みで溜め込んだものが破裂しはしまいかと、心配になったのだろうか。

自分でも良く分からないまま口をついてしまった。

すると頭上から小さく息を呑む音がして、そして狼狽した声が響いた。


「え……ぇ……まさか、く、口に出て……!?」


「……まあ、はい。所々ですけど、何だか大変みたいですね」


「…………っ」


 相手が再び息を呑み、わなわなと震えているらしき気配がした。

そして聞こえた囁き声は、羞恥のためか掠れていた。


「……いやだわ……気をつけていたのに。

前にうっかりして、ヘマしそうになったもの。

ああでも、同じ過ちを繰り返すのが人間というものよね……」


 そして、落ち込んだように深々とため息をつかれてしまった。

実際には外に漏らしてはおらず、シノレが勝手に傍受しただけなのだが。

まさかそれを告げるわけにもいかず、シノレは二の句に迷った。


(話しかけたは良いものの……どうすれば良いんだ、これ)


 ご令嬢の話し相手なんてしたこともないので――聖者とかシオンは色々特例すぎるので除外である――会話の作法など分かるはずもないし……そう悩んで、結局シノレが言ったのは当たり障りない労いだけだった。


「えーと……その、大変みたいですけど……頑張っておられるんですね。

ただの通りすがりですが、それでも伝わってきます。

もし良ければ、何か話をお聞きしますが」


「…………」


 だが、返ってきたのは迷うような沈黙だった。

シノレも別に、どうしても打ち明けて欲しいというわけでもない。

ただ何となくだが言ってしまった以上、途中で逃げ出すのも宜しくない。


「顔も知らない行きずりの相手だから、言えることもあるでしょう。

僕はここで取るに足りない存在ですし、すぐに忘れますから。

気にせず何でも言ってくれて良いですよ」


 別にどこかに報告するつもりも、その義務もない。

信頼できないと去られるなら別にそれで構わない。

ただ、多少でも相手が楽になればと思い、提案してみただけだった。

そこからは黙り、相手の反応を待ち受ける。


「…………まだいる?本当に聞いてくれるの?」


「はい」


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