歓迎の宴
教団において教主を排出しているワーレン家の人物の歓迎の宴。その主役は現教主の弟、エレクだった。
彼は騎士団大公家の姫、オルシーラの歓待のために聖都を出てきたのであった。
添えられているのは至極小さな、それでいて瀟洒な彫り込みがされたフォークだった。
果肉を刺し、品よく口に運ぶ。
よく冷やしてあるようで、口に入れた瞬間ひやりと冷感が広がった。
「……大変素晴らしいですわ」
「まあ、お口にあって良かったです。
セネロスの方にお認め頂ければ、自信がつきますわ」
今宵はワーレン家の人物の、到着歓迎の宴である。
歓迎の意を表すために異例の贅沢が振る舞われると、最近は専らの噂であった。
それは一体どのようなものなのだろうと、オルシーラも気にするところだった。
流れで余興を振る舞うことになった今となっては、失敗して空気を壊してはいけないという思いもある。
どよめきが広がっていく。
彼らが視線を向ける先に、オルシーラも目を向けた。
銀髪の少年が、レイグとともに入場して来るところだった。
何やら語らっている様子で、こちらに横顔を向ける彼は、現教主の異母弟だと聞いている。
端然とした姿勢で、繊細ながらもどこか鋭利な面差しの少年だった。
庶子という言葉からは想像できないような、悠然とした佇まいだ。
ちらちらと視線を送っていたオルシーラに、また新たな声がかかった。
「オルシーラ姫、楽しんでおられますか?」
「あら、シオン様。御機嫌よう」
彼女が訪れてからというもの、何かと世話をしてくれていた。
そんなこともあり、多少なりとも気心の知れた間柄だ。
オルシーラは微笑んで会釈した。
挨拶を交わしてから、話はエルクのことになる。
気にしていたのに気づかれていたらしい。
オルシーラはややはにかむ表情を見せ、首肯した。
「あの方が、エルク様なのですね。
実際にお会いしたことはありませんのに、演奏のこともあって何かと意識してきたものですから、何だか不思議な感じが致します」
「ワーレン家の方々は、聖都を出ることもそうそうありません。
エルク様がいらしたのは、猊下のオルシーラ姫へのお心尽くしかと拝察します」
「恐縮ですわ。御本人とも、いつかお会いしてみたいものです。
偉大な教主であられたという先代様に、似ておられるのでしょうか」
「いえ、猊下は母君に似ておいでです。
先代猊下やご父君の面影がおありなのは、どちらかと言えばエルク様の方ですね」
「まあ、そうなのですか」
オルシーラは相槌を打ち、改めてエルクを見やった。
彼女は他のワーレン家と直接の面識はないから、面影を照合することはできないが系図は頭に入っている。
先代教主クローヴィスとその弟。
更にもう一人、妹も存命だと聞く。
そんなことを考えている内に、空気の流れが僅かに変わるのを感じた。




