外と繋がる門
「……グランバルドも、最近ちょっと気になるのよね。
この前、ヴェスピウスが乗り込んだんでしょ。
軽く偵察にでも行ってみようかしらと思ってるの。どうかしら?」
継承戦の舞台にこそなっていないが、グランバルドも現在、長の座を巡る戦いが行われている。
こちらは双方総帥の息子ではないものの、中々熾烈なことになっているようだ。
ナーガルとしても、隣の動乱に無関心ではいられない。
世話になっているギルベルトへ借りを返しておきたいという気持ちもあった。
それに兄弟ではないとは言え、他人事とも言い切れない部分がある。
「名前は確か、ガルディアだったっけ。
アタシたちの従兄を名乗っているっていう……」
今グランバルドで挑戦を受けている現頭領というのが、現総帥の兄の遺児を名乗っているのだ。
そうしたことは、この百年前例がなかったわけではない。
総帥の支配に反目する者、手っ取り早く注目を浴びたい者、色んな者が色んな思惑で総帥の血族を騙った。
それが本当かどうかは、総帥が言及しない以上分からない。
隣を歩くニアはしかし、そのことにさして関心はないようだった。
「南?……蛇の邪魔はしないほうが良いと思うな。
兄さんの立場じゃ、行くことそのものに意味が出てきちゃうから」
「……そうね」
総帥の息子たちの、指輪の奪い合い。
それは結局縄張り争いの果てに決するものだ。
今グランバルドに行けば、決戦を挑まれていると思われても仕方ない。
自称従兄と弟の戦いは、静観するのが無難だろう。
(総帥の兄の遺児、ね……まあ勝ち続けない限り、その称号が光り輝くことはないでしょうけど)
似たようなことは親世代、その前の世代にもあった。
祖父に当たる二代目総帥は、これについて「敗残者の係累なぞ我が血族ではない」と切り捨て、無造作に潰し、二度と言及しなかったという。
楽団と言う場所は何でもありの実力主義だ。
ただ一つ、結果だけが絶対視される。
相続や利権を巡って親兄弟で殺し合うなんてこともありふれている。
身内の情を挟んだ者から淘汰されていく過酷な世界であり、家族愛などにしがみついては生き残れないのが現実だ。
だが、完全にそれだけかと言うとそうでもない。
何もかもが不確かで熾烈な競争社会であればこそ、血縁という切っても切れない絆に執心する者も、決して少なくはないのだ。
それこそバルタザールのように……思い浮かんだその顔に、エヴァンジルは渋い顔をする。
「……今この時期にワリアンドに行くなんて……
ほんっと気をつけなさいよ。
先月来たバルタザールにしたって……ああ、鷹のあいつもね。
……あいつは何するか分からないから。
特に、バルジールのことでは」
鷹、そう言われて初めてニアの中で点と点が結びついた。
記憶が蘇り、先月出会った像を結ぶ。
『教団について、どう思う?』
そう問うた声を思い出す。明らかに興じていた。
残酷で、酷薄で、それでいて童のような無邪気さを浮かべた。
……あれは総帥と同種の、楽団というものを体現したような男だ。
無邪気に笑い、無邪気に殺す。
強者が善であるが故に、己の行いに疑問を持つことがない。
そこに自省も躊躇も、悪意すらないから恐ろしいのだ。
そういう、生まれながらの強者というものが、楽団には稀にいる。
そういう人間には、流されゆく弱者の気持ちは決して分からない。
鷹は終生鼠の視点など持てまいし、逆も然りだ。
「……そうだね。分かってる。
でもありがとう、兄さん」
「…………ああもう心配になってきたわ。
アタシも一緒に行こうかしら。
予定もまだ決まってないことだし、ヴィラ―ゼル兄さんのとこなら一息つけるでしょ」
「おれは別にそれでも良いけど。
……兄さん自身の目的にとって、それは良いことなの?」
「…………」
見透かすような物言いに、エヴァンジルは視線を落とした。
ニアは少し笑って、その顔を見据えている。
外と繋がる門は、もうすぐ近くまで迫っていた。




