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貴族令嬢の真実

今回は貴族階級女性のハードさを少々。場面としてはリヴィアさんですが後半まで出ません。

 ――――男性、特に独身の年少者からは、時折誤解されることがあるが。


「令嬢」「貴婦人」とは決して、名門に生まれ、名門に嫁げばなれる、常に着飾って笑っているだけの優雅な存在などではない。

実家と婚家を結びつけ、双方に名声と利益を齎し、上流社会を牽引すべく教育された存在だ。

その実態は膨大な学習量と分析、高度な技能と適性を問われる専門職と言って差し支えない。


 語学、文学、数学、歴史、地理、天文学、芸術、 社交術、礼儀作法、歌舞音曲、外交、政治、家系図学、経営、財務、資産運用、心理戦、人心掌握、人脈形成、情報操作……

社交界に君臨する女性たちは、これらを高水準で修め、時と場合に応じて自在に使いこなせなければならない。

更に言えば徹底的な自己管理と演技力も必須だ。


 夫の政敵や商売敵への牽制、一族の統率、縁談の調整、社交界の掌握、実家と婚家の橋渡し、他家との外交・同盟・情報戦、婚家の資産と家政の運営、訪れる客人への接遇、使用人の管理と教育、次世代やその後も考慮した長期的な戦略構築……まだまだ、果たす務めは恐るべき多岐に渡る。

考えることも整理することも手配することも山のように存在する。


表向きはどれほど優雅に見えたとしても、彼女たちは家門の隆盛を背負う戦略家だ。


涙も微笑みも、美しさも愛すらも、家名を守るための磨き抜かれた計略だった。

そうした優秀な女性を輩出し続け、他の名家との繋がりを保ち、影響力を維持し続けられる家系こそが「名門」と呼ばれるのだ。

 結婚は家の栄達のため行う神聖な契約。

婚家においては波風を立てず、秩序を保つため振る舞うべし。

結果としてそれが最も実家にも婚家にも、そして社会全体にも寄与することになる。

教団の良家に生まれた娘は、物心つく前からそう教え込まれる。

また婚家でどのような位置に収まるかも重要だ。

正妻か妾か、妾ならば何番目か……それぞれに微妙な立場の違いがあり、必要とされる心構えも変わってくるのだ。

幼い頃からその娘が正妻向きか妾向きか、そういった適性まで見られ、様々に結婚や婚家での心得を教わって育つ。


 中には代々貞淑で優れた女性を輩出すると評価され、そこの出身というだけで絶大な信頼を寄せられる家系も存在する。

そういった家系には、先祖の女性たちの実体験や教訓、非常時の裏技などを赤裸々に綴った虎の巻まであると言われている。

無論、そこで言及されているのが誰か、どの家の出来事か、分かる者には分かってしまうし、他者の名誉に触れることもある。

故に門外不出、女子だけに継承されるとかされないとか……。


 だが、それらは今のリヴィアにとっては、雲よりも遠い世界のことに思われた。

彼女自身の失態ではなくても、一度傷ついた価値はどうしようもない。

身内が不祥事を起こしてしまったからには、「所詮血は争えない」「家の教育が悪いのでは」と、偏見に晒されることは避けられないのだ。


 正妻は家の顔であり、次世代を築き上げる者だ。

家政の要というべきその存在に、一点の瑕疵もあってはならない。

結婚とは家を守り、栄えさせるためのものだというのに、家を脅かし汚す可能性のある者を入れては本末転倒だ。

正妻から妾へと婚約が格下げされたのは、辛くはあるが当然のことだと、時間が経った今リヴィアは受け止めていた。


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