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忠告…?

『ハゲ!!あのハゲ!!ヅラの上から気取った帽子被ってんじゃないわよ!!!!』


「…………」


 しかし、そこで足は止まってしまう。向こうでは未だどこぞの少女が押し殺した怒号を吐き捨てている。

これが、この場限りのことならいい。

だが彼女にとって、この場所が愚痴を言える場所として定着してしまったら。

そして他の誰かに立ち聞きでもされた日には、色々まずいことになるのではないか。


 やはり、一言でも忠告しておくべきだろうか……いや、でも、シノレがここで聞いてしまったなんて知られるのも困る。

お偉いさん方のあれこれになど関わりたくないし、知りたくもない。正直聖者関連で手一杯だ。


 シノレは寸時立ち尽くし、迷った後、足ではなく手を伸ばした。


『そもそもあいつらは年がら年中人のあら捜しと揚げ足取りばっかり――!!』


「…………」


 また少女の声が伝わってくる。それに被せるように、騒がしく植木の音を鳴らした。


 結局シノレが選んだのは、手近な植え込みを思いっきり揺さぶることだった。

葉が硬いようで、がっさがっさと思いがけず派手な音が鳴ったのは僥倖だった。

ここには誰もおらず、これは強風で揺れているだけなのである。

そういうことで、何とか伝わらないだろうか。


 この壁はそちらが思っているより分厚くないし、向こう側を人が通ることもあるのだ。

ある程度大きい物音は伝わってしまう。頼むからこれで伝わってくれ――念を送るようにそう思う。


『…………っ』


 それが通じたか、ふっと息を呑む気配がした。

更に衣擦れの音がして、相手が数歩後ずさったことを伝えた。

そのまま潜めた足音が遠ざかっていき、完全に気配が失せたのを確認してから、シノレは息をついた。


「……何だったのかな、あれ」


 さっさとその場を離れて部屋に戻ってから、シノレはそう呟いた。

あの言い様から察するに、社交界に出てきたばかりの令嬢か何かだろうか――

そして思い出すのは、最近時間を共有することの多いブライアンのことだ。


 彼は専らユミルやシオンとばかり話していて、シノレは直接関わることは稀だが。

それでもある程度の日数一緒にいたのだし、色々耳に入ってくることはある。

しばしば彼の口に上るのは婚約者のこと――親族の不祥事と偏見で、立場を失くしているだろうリヴィアのことだ。

最近では社交界の行事への出席すら自粛しているんだったか……。


 あの少女ももしかして、同じような立場で苦労しているのかもしれない。

ちらりとそんなことを考えたが、すぐに自分には関係のないことだと割り切った。

気の抜けたところで、小さく欠伸が出る。

思わぬ変事はあったが、とにかくこれで眠れそうだと思った。


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