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『虚月』

 セリクドールの目が、たちまち憎悪に淀んだ。

そこに更に、囁くような声で畳み掛ける。


「……教団には矛盾がある。

普段は表面化せずとも、動揺している時は疑問を感じやすいものです。

それをもとにベウガンを扇動するといい。

もう既にしているかと思いますが」


「そうだ……あれこそ人を惑わし、堕落させる、穢れた神の邪教。

今こそ失墜させ、穢れを拭わねばなりません」


「ええ、その通り。

……総帥の子の一人は、貴方の支配下にあると聞きます。

しかしながらエルヴェミアの方は、この度は中立に立ちたいとのことでした」


「は……?何と、嘆かわしい。

確かに楽団と同化して久しいが、遡れば同じクラ―デス家に連なる同胞だというのに。

最早血の誇りも捨て去ったか……」


 セリクドールは不機嫌そうに声を低め、こめかみを押さえるが、やがて気を取り直したように呟く。


「……まあ、宜しいでしょう。

エルヴェミアを引き入れたら引き入れたで、”彼”が臍を曲げそうですから」


 人気のない城の一室で、彼らは密談を重ねる。

通常なら、警戒した相手には秘め事などすぐに気取られる。

しかし、この頃の教団はベウガンに気を取られ、庇護を求める者たちへの対応に追われている。

何より……比類なき力を示した教団を頼ろうとする者は多いが、例の御業によって教団を目障りに思った者も多いのだ。

出る杭は打たれる。つまりそういうことだ。


 正直、驚嘆していた。

並ぶ者なき楽団の頂点。オルノーグの覇者が首を振った、ただそれだけで、ここまで迅速に、秘密裏に、全てが動き出すのかと。

一応、それなりに長い付き合いではあるが、つくづくあの人物は底が知れない。


「『虚月』の準備も、既に終了しているそうです。

後は燃料の調達が叶えば、すぐに動くとのことです」


「ええ。そこは拙が融通しましょう。

トワドラに話はつけてありますから、すぐに搬入が始まるはずです」


 ――術具でも取り分け格の高いものは、質と純度の低い魔晶石を受け入れないとされている。

魔晶石でも、ただの石ころや塵からできたものでは駄目ということだ。

例えば上質な魔晶銀や魔晶翠――核が金銀宝石、かつ一定以上の純度と蓄積量を持つものでなければ、それらは起動することさえしない。

世界にはそんな気位の高い術具が一定数あり、そしてそれらは例外なく、全能力を発揮した際世界を揺るがすほどの力を秘めている。


 『虚月』。

現存する術具の中で、最も強大にして高貴な遺産。

そして医師団が長年研究し、探求してきたとある事業。

その二つを以て、教団の中核を砕く。

それが彼らの目指す到達点であった。

ラディスラウは蒼白な顔の大神官に、もう一度囁いた。


「『虚月』の伝説が世に再来する瞬間。

それが、貴方方の正しさを世界に示す時となるでしょう」


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