医師団の悲願
かの門を開かなければならない。
それが医師団の悲願であり、己の本懐である。
そのために聖者の身柄を是が非でも得たい。
そのために教団を潰えさせるとしても、それは致し方ない犠牲である。
この地で数えるのも馬鹿らしいほど行われてきたように、そして教団もそうしてきたように、それは普通のことなのだ。
あらゆるものが興っては滅び、その歴史の果てに今がある。
ラディスラウは迎えの一行に従い、ついにロスフィークの都市に入った。
楽団でのことを半端な形で投げ出すことにはなったが……あちらはゼファイに任せておけば何とかなるだろう。
赤毛の監督役もいることだし。彼は頭を切り替え、目先のことに集中することにした。
貴族の所有だけあって、その城塞の内装は中々壮麗なものだった。
どこを見ても年季が入り、百年そこらの建造物では出せない重みがある。
古く、華麗で、それでいて行きどころのない怨念が蟠っているような場所だった。
不躾にならない程度に目を配りながら歩き、そして約束した相手のもとにたどり着く。
「はじめまして、大神官殿。お会いできて光栄に存じます」
マディス教の作法に倣い、大神官への礼を取る。
別に彼はここの宗教に同調しているわけではないが、反発を招きたいわけでもない。
教団の人間なら間違いなく一悶着するであろうところを、そんな風にあっさりと通過した。
「謀は、滞りなく進んでいるでしょうか?」
ラディスラウはそう問いかけつつも、しかし返事を待たずに続ける。
この前のレドリアでの滞在で、気にかかったことがあったのだ。
「……ファラードの密偵に気取られることだけは避けねばなりません。
レドリアはあまり使わない方が宜しいかと。
あそこはまさに、彼らの根城ですから」
「それは我らとしても承知ですが……
それではどのように情報と同意を交わせば良いのでしょうか」
「拙が尽力しましょう。何なりと。
医師団のことは、先刻ご存知でしょう?」
「…………それはそうですが」
すると相手の目に、僅かな危惧の色が浮かぶ。
あまりに距離が離れていることから、騎士団と医師団は長く交誼を持つことがなかった。
今となって、このまま医師団を信じても良いものか――そんな憂慮が浮かんだ様子だ。
それを見て取り、ラディスラウは相手の心の隙間を突くことにした。
「……どうかお任せを。
教団の排除。それにおいて、我らの目的は一致しております」




