魔力の反動
そして目覚めた時にはとっぷり日が暮れていた。
いや何をしてるんだと、起きてからシノレは頭を抱えずにいられなかった。
何なのだ、幾ら調子が悪かったからって。
完全に警戒心が消し飛んでいた。
シノレの習性的に、こんなことあってはならないと、身悶えしたくなるような拒絶感があった。
いやまあ、朝までの気分が嘘のようにすっきりしたし、体は軽くなったが、だがだからって、他人の前であそこまで無防備になってどうするのだ!!
「シノレ、もう目は覚めて――…………どうかしましたか?」
「……なんでもない」
そして一番不可解なのは、拒絶感はあっても嫌悪感が然程ないことだった。
かつての自分ならあり得なかったことだ。
やはりあれか、絆されているということなのだろうか。
いやしかし……葛藤を引きずりながら、再び会いに来た聖者に憮然と返す。
いつもの報告や世間話の他にも、先程のことについての補足に余念がなかった。
「……自分自身の中にある流れを整えること。
最も基本的で、大切なことでもあります。
そこに気を配っておけば、体調が崩れてもすぐ立て直せます。
例の剣の錆落としも、同じような要領ですから。
折角ですし、練習してみて下さいね」
そう言われて、早速錆落としとやらをやってみることにした。
長櫃に向き合い、封印を解いた。
因みに以前聞いたところでは、魔力で鍵を掛けることを封印というらしい。
術者本人であれば解錠は訳無いが、別人が解くのはかなりの労力を要するのだとか。
最初にエルフェスの城で開けた時を思い出しても、あまり腑には落ちなかったが普通はそうらしい。
「じゃあ、始めるね」
「…………」
朝に聖者にしてもらったので、要領は結構掴めていた。
反発されないように慎重に魔力を流し、探りを入れる。
集中し、意識を一部そこに移すと、内部の様子が伝わってきた。
黒黒と光る剣の中。
そこには確かに何か淀んだような、汚れに似た気配がある。
魔力を調節して、どうにか汚れを落とそうと四苦八苦した。
あれこれ工夫する内に、少しずつ手応えを感じ、更なる要領が分かってくる。
それにしても、綺麗にしなければいけない部分が多すぎる。
「…………っ!?」
「シノレ……!」
雑事に気を取られたのが良くなかったのか。
その瞬間、シノレは剣から弾き出された。
反動で仰け反った体を、聖者が後ろから支える。




