表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/479

勇者への評価

「では、勇者様はどうかしら?」と誰かが投げかけた言葉に、令嬢たちは目を見合わせた。

その顔にはいづれも、好意的な色は浮かんでいない。

一拍を置いて、彼女たちは口々に言いだした。


「ユミル様と同じです。幼すぎますわね」


「いくら聖者様の呼び寄せたとはいっても。

素性も知れない楽団の奴隷でしょう?ありえませんわ」


「何より、あの目がねえ……造作は悪くないのに、惜しいですわ。

前に目が合ったことがありますけれど、少々ぞっとしました」


 そう言って、一人が小さく肩を震わせる。

あの濁りきった、死んだ魚のような目は本当に頂けない。

紫とも青ともつかない薄い色で、別段濃い色ではないのに、妙に黒黒と淀んで見えたものだ。

あまり長時間正視したいとは思えない。

少々微妙になった空気を切り替えるように、咳払いが響いた。


「……ですが、今年はシオン様がいらっしゃるのでしょう?

それは本当に楽しみですわ!

あの方の前では殿方も型なしだもの」


「好きねえ、あなたも……まあ確かに、見目も実力も家柄も、並大抵の殿方では敵いませんものね?」


 令嬢たちはくすくすと笑った。

一部の若い令嬢が、彼女に熱い視線を向けることは珍しくもない。

そしてその実力も確かであり、シオンはこれまでに何度も狩猟祭で上位に入賞しており、その実力は誰もが認めるところだった。

「シオン様は今年も間違いなく、今年も狩猟祭に参加なさるのでしょうね?」


「間違いないですわ。叔父様から聞きましたもの」


「まあ、素敵。少しでもお話しできますかしら!」


 表面上は華やいだ弾んだ会話のように見えても、裏では駆け引きが始まっている。

彼女たちにとっては、如何にして狩猟祭で良い席を確保するか、それが問題なのだ。


「聖者様は、中央の貴賓席にお座りになりますのよね?」


「ええ、もちろん。……その隣に座るのは、やはり使徒家かその所縁の御婦人方でしょうね」


「うふふふ」


 一人の令嬢が何気なく放った言葉に、軽い緊張が走る。


中央の席とその付近は特別なものであり、もしそこに座ることができれば、一気に注目の的となる。

贅を尽くした天幕、その下に集う貴婦人たちは、最大限着飾ることを許される。

間違いなく、狩猟祭で最も華やかな場所であった。

彼女たちにとっては遠い憧れだが、決して届かない高みとは必ずしも言えない。


 或いはもう一つの狙いどころは、狩猟から帰還した男性たちを間近で迎える席だった。

彼らが戦果を携えて戻ってくるその瞬間、称賛の言葉をかけるのに最適な位置を確保しておくというのも、悪くはない。


「今年はどなたが、目ぼしい成果を上げるのかしら?」


「まあ、第一候補はやはりカドラスの方々の誰かではなくて?」


「ふふ、シオン様でしょう。殿方たちの意地も、見てみたいですけれどね」


「どなたにも、諦めずに奮闘なさってほしいですわね」


 そうした話をしながらも、令嬢たちは周囲の動きを注意深く観察している。

中央の近くを狙う者、狩人たちが戻る道沿いの最前列を狙う者――狩猟祭の間、彼女たちはそこで、ただ座っているのではない。

巧妙に誘導し、時には微笑みかけ、あるいは目当ての相手を釣り上げるための話題を探る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ