勇者への評価
「では、勇者様はどうかしら?」と誰かが投げかけた言葉に、令嬢たちは目を見合わせた。
その顔にはいづれも、好意的な色は浮かんでいない。
一拍を置いて、彼女たちは口々に言いだした。
「ユミル様と同じです。幼すぎますわね」
「いくら聖者様の呼び寄せたとはいっても。
素性も知れない楽団の奴隷でしょう?ありえませんわ」
「何より、あの目がねえ……造作は悪くないのに、惜しいですわ。
前に目が合ったことがありますけれど、少々ぞっとしました」
そう言って、一人が小さく肩を震わせる。
あの濁りきった、死んだ魚のような目は本当に頂けない。
紫とも青ともつかない薄い色で、別段濃い色ではないのに、妙に黒黒と淀んで見えたものだ。
あまり長時間正視したいとは思えない。
少々微妙になった空気を切り替えるように、咳払いが響いた。
「……ですが、今年はシオン様がいらっしゃるのでしょう?
それは本当に楽しみですわ!
あの方の前では殿方も型なしだもの」
「好きねえ、あなたも……まあ確かに、見目も実力も家柄も、並大抵の殿方では敵いませんものね?」
令嬢たちはくすくすと笑った。
一部の若い令嬢が、彼女に熱い視線を向けることは珍しくもない。
そしてその実力も確かであり、シオンはこれまでに何度も狩猟祭で上位に入賞しており、その実力は誰もが認めるところだった。
「シオン様は今年も間違いなく、今年も狩猟祭に参加なさるのでしょうね?」
「間違いないですわ。叔父様から聞きましたもの」
「まあ、素敵。少しでもお話しできますかしら!」
表面上は華やいだ弾んだ会話のように見えても、裏では駆け引きが始まっている。
彼女たちにとっては、如何にして狩猟祭で良い席を確保するか、それが問題なのだ。
「聖者様は、中央の貴賓席にお座りになりますのよね?」
「ええ、もちろん。……その隣に座るのは、やはり使徒家かその所縁の御婦人方でしょうね」
「うふふふ」
一人の令嬢が何気なく放った言葉に、軽い緊張が走る。
中央の席とその付近は特別なものであり、もしそこに座ることができれば、一気に注目の的となる。
贅を尽くした天幕、その下に集う貴婦人たちは、最大限着飾ることを許される。
間違いなく、狩猟祭で最も華やかな場所であった。
彼女たちにとっては遠い憧れだが、決して届かない高みとは必ずしも言えない。
或いはもう一つの狙いどころは、狩猟から帰還した男性たちを間近で迎える席だった。
彼らが戦果を携えて戻ってくるその瞬間、称賛の言葉をかけるのに最適な位置を確保しておくというのも、悪くはない。
「今年はどなたが、目ぼしい成果を上げるのかしら?」
「まあ、第一候補はやはりカドラスの方々の誰かではなくて?」
「ふふ、シオン様でしょう。殿方たちの意地も、見てみたいですけれどね」
「どなたにも、諦めずに奮闘なさってほしいですわね」
そうした話をしながらも、令嬢たちは周囲の動きを注意深く観察している。
中央の近くを狙う者、狩人たちが戻る道沿いの最前列を狙う者――狩猟祭の間、彼女たちはそこで、ただ座っているのではない。
巧妙に誘導し、時には微笑みかけ、あるいは目当ての相手を釣り上げるための話題を探る。




