令嬢たちの噂話
令嬢たちの楽しい女子会。
女子の怖さとドロドロを押し出してみました!
我ながら性格悪いと思いますが、書いてて滅茶苦茶楽しかったです!
狩猟祭に向けて、密かな攻防は既に始まっている。
城への出入りが許される良家の令嬢たちは、いづれも華やかな衣装を身にまとい、城内の一室に集っていた。
狩猟祭は男性中心の行事だ。
しかし、女性の楽しみが無いわけでは決してない。
彼女たちの目的は、単に狩猟を見物することではない。
設えられる観覧席のどこに座るか、誰と親しく言葉を交わすか、誰を称賛し、誰を軽んじるか——それら全てが、それぞれの家の立ち位置や力関係に左右されるのだ。
交わす話には次々と花が咲いた。
「ねえ、聞いて下さいませ。
この前東屋に扇子を忘れてしまったのだけれど、それをシオン様が届けてくださいましたの!
『とても趣味が良くてお似合いでしたので記憶に残ってました』
って……!」
「それは良かったですわね。
私も以前、ハンカチを風に攫われた時、シオン様が取って下さいましたわ」
「お優しい方ですものね。
私も、高いところにある書物も取って頂いたことがありますし……」
暫くはそんな調子で、わいわいと盛り上がる。
特にシオンの話題は盛り上がった。
かの女騎士は文句のつけようのない容姿と実力を有する。
おまけに身分問わず、誰にでも親切だ。
そのために城の女性の中で、シオンは非常に人気であった。
たとえ男関係で話が拗れたとしても、「でもやはり、シオン様が一番素敵だわ」とでも茶々を入れれば場が和む。
令嬢たちにとって、シオンはそんな、理想の騎士とでも言うべき存在であった。
「素敵よねえ、シオン様。
あの方が殿方であればどんなにか……
そう言えば甥御のユミル様も、今年は参加なさるのよね?」
彼女たちは茶菓を摘みつつ、情報交換がてら、好き勝手なことを言い合う。
話題は専ら迫る狩猟祭において、注目すべき人間についてだった。
「ねえ、セシル様。セシル様はどうお思いですか?
いつもあまりこの手の話に参加なさらないけれど、狩猟祭は山場ですもの。
意中の方のお一人はいらっしゃるでしょう?」
水を向けられたセシルは曖昧に微笑む。
良家の令嬢たちが集う場で失言は許されない。
この中で成り上がりの出身たる彼女の格は、下から数えた方が早いのだ。
どんな場面でも、慎重に言葉を選ぶ必要があった。
「さあ、私にはまだ何とも……あまり、殿方のことには詳しくありませんし。
強いて言えば、今年の催しには、使徒家からユミル様がお越しになると聞きましたわ。
使徒家の後継がおいでになるのだから、今度の狩猟祭は例年の中でも栄えあるものになることでしょうね」
誰も刺激しないよう、極力当たり障りなく答えを返す。
こういう場では下手なことは言わずに、ただ周囲の声に静かに耳を傾けるのが彼女の戦略だった。
「……ユミル様?そうね、あの方は確かに必見でしょうけれど、些か幼すぎますわ」
「そうね。数年後が楽しみなことは、間違いないのですけれど……
まあそういうことなら、セシル様は特にお目当ての方はいらっしゃらないということね?」
「ええ、皆さまのお話を聞くだけで充分楽しいのですもの」
上手くやり過ごせたようで、注目が外れ別の話題に移る。




