ウルリカからの伝言
聖都シルバエルの門前は、その日慌ただしく人が行き交っていた。
エルクは遠からずして、シアレットに向けて出発する予定だった。
兄への挨拶は既に済ませており、もう準備が完了したら出発するだけという状態だ。
エルクはいつでも動けるよう、近い場所で待機しつつ準備の様を見守っていた。
そこに、華やいだ声がかけられる。
「エルクー!」
「ウルリカ様、おいで下さったのですか。
……ありがとうございます」
そこにやって来たのはウルレアの子どもたち――エルクにとって、いとこにあたる人々だ。
先代教主の妹の子であり、教主の腹心であるベルダットの弟妹でもあり、ワーレン家の中でも主要な位置を占めていると言える。
相手は嫡流、こちらは庶子である以上弁えるべき一線はあるのだが、それをおいても親しくしてくれていると、そう認識していた。
真っ先にやって来た少女に、丁寧に礼をする。
長女ウルリカは、母親のウルレアに良く似た面差しの少女だった。
洒落たドレスに、明るく元気ながらも品のある所作。
毛先だけ巻いた銀髪の艶は美しく、菫色の瞳は生き生きと輝いている。
エルクと同い年の彼女は、始まったばかりの許嫁の選定にも、あれは駄目これも気に入らないこっちも物足りないと、散々我儘を言っているとか。
使徒家縁の少年たちは皆、一度は彼女に振り回されたことがあるだろうと言われている。
「見送りに来たのはそうだけど、一緒に伝えて欲しいこともあるの!
ねえエルク、聞いてよ!ユミルったらね!」
そのウルリカが興奮気味に捲し立てたところによると。
三月ほど前に、彼女はユミルに会ったらしい。
その時にシアレットの名産品のことが話題に上った。
かの街の近くでは孔雀石が取れる一帯がある。
更にシアレットの工房で新たな研磨技術が開発され、それを用いたお守りが流行しつつあるのだとか。
話の流れでウルリカがそれに興味を示すとユミルは、
「それなら手配してお贈りしますよ!これからシアレットに行くことになりましたので!」
とか言って、それきりさっぱり音沙汰がないのだとか。
「いつ来るかって、ずーっと待ってたのに!
いつまで経っても来ないじゃないの!
あの子のことだから、どうせ自分で言ったことも忘れ去って素振りに夢中になっているに決まっているわ!
いつも騎士がどうとか言ってるけど!
剣の腕とか以前に、あの子には淑女への奉仕精神というものが足りないのよ!」
赤く頬を染め、憤懣遣る方無いといった風情のウルリカを、エルクは恐る恐る宥めにかかる。
「……お話は分かりました。
シアレットについたら、すぐに皆様にご挨拶することになりますから……ユミル様には、ウルリカ様がお待ちかねでいらっしゃることをお伝えしておきますね」
「ええ、そうしてね。あ、それに、エルクも気を付けて。
折角だから楽しんできてね!」
そう屈託なく笑う従妹に笑い返す。
我儘でも気儘でも、彼女のこういうところが何だかんだで愛されるのだろうなと思った。




