待ち焦がれた機会
令嬢たちは、扇越しに目を見合わせて意味ありげに微笑みあった。
「……ですが、今年の狩猟祭で最大の賓客は、何と言っても聖者様ですわ。
オルシーラ姫も、聖者様のお姿には驚かれたのではありません?」
話題が変わり、水を向けられる。
飛び込んできたその単語にオルシーラは微笑み、そっと目を伏せた。
まつ毛の角度、扇の角度、手首の角度、光の加減まで計算された仕草だ。
それは聖者の麗質とは違った意味で、息を呑むほど美しい。
それは喩えるなら天空に浮かぶ月と、完璧に研磨された宝石のような趣の違いであった。
「……本当に。あんなにもお美しい方がいるだなんて、思いもしませんでしたわ。
今でもお姿を思い出す度、胸が騒ぐ心地が致します」
「ええ、ええ。驚かれたことでしょうね。
聖者様は本当に、眩いほどにお美しいですもの……
いつ見ても、畏敬に打たれる思いがしますわ」
「光り輝くような、という形容があれほど相応しい方もおりません。
あの方は別格ですわ。
神の恩寵としか言いようがありません。
オルシーラ姫、宜しければ聖者様のお話をお聞かせしましょうか?」
オルシーラは来た、と感じた。
わざわざ意思を確認されるまでもなく、それは彼女が最も知りたいことであった。
しかし、自分から水を向けるのは危険が大きい。
だがこのまま、一切踏み込まずというわけにもいかない。
だがあれこれ聞き込んでも警戒される。
少しずつ人脈を形成し、打ち解けながら、誰かがこれを言い出すのを待っていたのだ。
扇の影から視線を巡らせる。
近くにいるのは、エルフェスに親戚や伝手を持つ少女たちであった。
「…………勿論です。天の御光を一身に受けたる聖者様について、是非とも皆様がご存知のお話をお聞きしたいですわ」
あくまで可憐に、穏やかに。
石像すら心惹かれるのではと思わせる。
鏡の前で何年も練習して身につけた、渾身の笑みでそう答えた。




