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聖地奪還の戦

 七十年前の聖地奪還の戦。

その時は準備不足が祟り、連携も上手く行かず、撤退を余儀なくされた。

追い込まれながらも執拗に攻撃を繰り返し、使徒家の一角たるシュデース家を壊滅させることに成功したが、それが何になろう。


使徒家は頻繁に婚姻を行っており、血を継ぐ者自体は何人もいるのだ。

案の定あっさりと復興され、僅かな爪痕程度にもならなかった。


 そして、三十年前に再び現大神官セリクドールの父が聖地奪還を夢見たが、その願いも先代教主クローヴィスの前に露と消えた。


 ――……以上が、ラディスラウの知る両宗教の経緯である。


「……迂闊なことを言うと、偉いことになるでしょうね。言葉には気をつけなければ」


 彼は今、ロスフィークから北側にやや離れた位置にいた。

彼は楽団を離れてから数日、中立地帯レドリアに滞在していた。

緊迫した情勢下にあるワリアンド、そしてベウガン地方からも程近いこの場所では、今日も様々な思惑が動いている。


 今の彼は総帥の使者ではないので、継承戦の見届人としての装束を解いていた。

代わりにありふれた薄手の旅装束を着込み、夏の光に白い顔を晒している。


 壁の上に座る彼の眼下には十字路が広がり、盛んに人が行き来している。

けれど誰もこちらに目は向けず、足の下を素通りしていく。

一帯に広げていた魔力を戻しながら、拾い上げた情報を選択し、種別していく。

このレドリアでそれほどの日数は経ていないが、大分情報を集めることができた。

魔力行使に伴う独特の疲労感と、それを凌駕する手応えにラディスラウは小さく笑んだ。


「教団に恨みはありませんが……彼らを下せば、彼の人は我らの手中に落ちる。

聖者様に、お会いできる。やっと」


 それを思うだけで、彼の心はらしくもなく高揚する。

まさか己の存命中に、再び稀人が到来しようとは。

奇跡という他なく、そして奇跡が起きたのなら掴み取らんとするのが人の本能であろう。


『なーラウラウ。元々俺はヴェンリル家が嫌いなのだ。

あの男の息子には、是非とも一泡吹かせたい。

つまりだな……貴下の策に喜んで乗ろうではないか!!』


 耳の奥に響くのは、魔力によって集めた思念ではない。

白竜が落ちて間もない頃に北で邂逅した、ある男との会話の残響である。


 竜の被害で半壊した大邸宅の一室。

革張りの豪奢な椅子に深く腰掛け、持ち主を喪った金の指輪を転がしながら、男は、バルタザールは赤い目を緩めた。

協力を要請した彼に、そう即答した時の声を思い出す。


 元々ロスフィークに限らず、騎士団自体に教団を疎み妬む思いはあった。

かつての同胞が病んだ故郷を棄て、最早望むべくもない進歩と繁栄を謳歌しているのだから思うところがあるのは当然だ。

なまじ似た部分が多くあるだけに、その感情は複雑で根深いものとなる。


 楽団と手を結び、教団を挟み撃ちにしたい。

そう望む思いは、それは前々からあった。

それを黙殺し、或いは失笑し、適当に利用して流してきたのは楽団側だ。

だがそれも、あの光によって事情が変わった。


 今や多くの人間が教団を恐れ、庇護を求める。

その裏で、各方面に教団は明確な脅威として認識されている。


それは、トワドラですら例外ではない。

あの光線は、やりようによっては医師団の全てであるトワドラを砕くことさえできるのだろうから。

それほどに絶対的な力だ。

観測結果を見るに、あれは現在の世界に存在する術具、遺産の全てに優越する。竜の出現といい、世界の均衡は急速に崩れつつある。

問題は、如何にその形を己の有利に繋がるよう修正するかだ。


「聖者様。白竜を滅ぼした聖なる御力。それが門の向こうと繋がるものである限り……」


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