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怒り

「――ならば見せよ!お前たちの怒りを!

お前たちの信仰を!

その剣を、邪教徒どもの喉に突き立てよ!

この炎は神の目なり!

この炎こそ、神の御手!

邪教徒は永遠の業火に焼かれることだろう!

神の怒りは下されるであろう!」


 応える声はいよいよ高まり、膨れ上がったそれは一つの生き物のように場を飲み込む。

彼らの恨みは、自らの信じる教義を否定されたことに留まらない。


 迫害を受け、住まいを追われた痛み――否、そればかりではない。

そんなものであるものか。

祖父母を、両親を、兄弟姉妹を殺された。

使徒家が行った粛清の影は、彼らの心に生々しい傷跡を留めている。

彼らの同胞たちは、血を分けた者たちは、暴虐の限りを尽くされ、あらゆる尊厳を剥ぎ取られて殺された。

殺されずとも、あまりの辛苦を前に心を折り我が身を儚んだ者もいた。


教団は、その全ての仇であった。

なんと長い屈辱の時間であったことだろうか。

だがそれも、己の代で終わらせる。

セリクドールはそう覚悟していた。

彼は目に異様な光を浮かべ、怨敵への呪詛を叫んだ。


「――忌まわしき教団、穢れた使徒の裔どもよ。

今度は貴様らが、世界を敵に回す番である!

者共よ、剣を取れ!!

流血の果てに正義は示される!!」


 狂乱と紙一重の力強い声が、一帯に響き渡る。

それに答えたのは、熱狂的な歓呼の渦であった。

その熱狂の中心で、セリクドールは魂の抜けたような顔をしたが、不意に涙を零した。


「炎が、燃えている。

これは罪の炎か?

いや、違う。神の炎だ。

ならば、これは祝福だ」


 一転して、静かな声だ。

涙を流したまま大神官は笑った。

そしてゆっくりと、息絶えた生贄を撫でる。

傍で火が弾け、光の花が散った。

それはとても温かく、優しい。


「怖いか?……怖いのか?ならば祝福だ。神は怖れられるべきだ――」


 生贄は答えない。答えるはずがない。

けれど、神は在る。そうだ、神を知るのだ。

火の中で、血の中で、骨の中で。

かつて教団に殺された父は、そう教えてくれたのだ。


 神はここにいる。神はここにいる。神はここにいる。


「ああ、神よ……なぜ、なぜ、なぜ!羨ましい、なんと羨ましいことか……」


 彼には神の声が聞こえる。

それを思えば、何も怖くはなくなる。だから問いかけた。


「――赦されるのか?」


 答えはない。

 ならば、この炎こそが答えだ。


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