マディス教の儀式
異教徒サイドの皆さんをやっと書けました……病みに病んで、すっかり闇落ち宗教な感じのテンションです
ロスフィークの城下の外れ、寂れた廃墟に彼らの姿はあった。
その中央にはひび割れた巨大な祭壇が設けられ、その奥では巨大な火が焚かれている。
更に奥には地下へ続く大空洞と繋がっている。時間は日が落ちる寸前だった。
微妙に暗く、淀んで、隣の者の顔も判然とせぬ風景が、不気味な雰囲気に更に拍車をかけていた。
セリクドールはそこに、厳かな声を掛ける。
「集まったか。……此度も儀式を行う夜が来た。
神の前に、我らの心を一つにし、聖戦を戦い抜くことを誓うのだ」
ぱちぱちと、火の粉が舞いながら光を踊らせる。
マディス教には伝統的に、神へ生贄を捧げる風習がある。
しかし以前と今では、その趣は全く異なる。
かつては豊穣を祝い、神々に感謝を捧げる朗らかなものであったのは、今や完全に呪詛の儀式と化していた。
祭壇に捧げられたのは羊――ワーレンがかつて、羊飼いとして連れていた動物である。
教団の教徒を象徴的に表すものでもある。
これから何をされるか知らない哀れな獣は、火の匂いに怯えた風情で首を巡らす。
それもすぐに取り押さえられた。そしてセリクドールに捧げられるのは、幾多の装飾で彩られた儀式用の、しかし実用にも適した剣だった。
「神よ――我らに邪教を屠る力を与え給え!!」
叫び、一刀に振り下ろした刃は正確に羊の命を断ち切った。
祭壇は羊の血に染まる。
一人の神官が掲げ持った杯にその一部が流れ、黒黒と光るそれは燃え盛る火中に投じられた。
「神よ、この祈りを聞き届けよ……!!」
その声とともに、黒煙は天へ上っていく。
廃墟の構造故かそれともそこに込められた狂気故か、この儀式でのセリクドールの声はいつにも増して異様な響きを持っていた。
彼は月に一度は必ずここに籠もり、夜を徹して祈りを捧げる。
それが何のためのものかは、最早語るまでもないことであった。
「――そなたらもこの煙を浴びよ!!かの邪教を根絶やしにする日まで、ワーレンの罪を許すな!!」
彼がそう叫ぶのには、信徒も大声を上げて応えるのには理由がある。
「見よ、この廃墟を!気高き聖地を奪われた屈辱を!彼の地はかつて神が祝福を与えた地!
しかし、奴らはそれを奪った!
我らの神殿を焼き、我らの神の名を穢した!
聞こえるか?大地の呻きが!血を求めている!それが神の怒り!それが神の裁き!その裁きを与える者は誰だ!」
我らなり、と一斉に叫ぶ。
それに彼は極限まで目を見開いた。
その表情はおよそ人間の浮かべるものではなく、正しく悪鬼の形相というべきものであった。




