表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/479

試行

「シノレ。分かっていると思いますが……

くれぐれも、軽々しく使おうとするようなことは……」


「当たり前でしょ。言われるまでもないよ」


 竜を滅した時のことを思い出す。

恐ろしいほどの勢いで膨れ上がっていき、爆発した力。

何が何だか分からなかったが、軽々に使ってはならないものだということだけは分かる。


あんな力を持たされても、身に余る。

人には分相応というものがあるのだ。

力を得れば色々付随物が出てきて、妬んだ者に付け狙われるというのが常識である。

これ以上の面倒事は真っ平だ。それが正直な感想だった。


「ていうか、寧ろ管理しきれるかが不安なんだけど。

何かの弾みで悪用でもされたら、街一つくらいは吹き飛ぶでしょ。

本当に大丈夫なの?」


「まず悪用される恐れはありません。

そもそも、貴方にしか使えませんから。

……或いは他に条件を満たす者がいるかもしれませんが、その場合は私がそれと分かります」


 断言してから、一応補足するように添える聖者である。

話しながら、聖者は魔力を使って櫃の封印を解いていた。


「……上達しましたね、本当に。見違えるようです」


 聖者は妙に嬉しそうに、静かに微笑む。

深く一礼してから手で櫃を開け、そしてこちらに手を差し伸べる。


「……試したいことがあります。

剣に触れたまま、もう片方の手を私に下さいますか」


 シノレは疲労を吐き出すように、深く息をついた。

何を試したいのか知らないが、まだ解放はされないらしい。

剣については正直彼としても手詰まりな感じがあったので、否やはなかった。

大人しく剣の柄に手を置き、聖者に手を差し出す。それはすぐに握られた。


 片手には剣の冷たく無機質な感触がある。

反対側では肌と内側の肉が、脈打ちながら触れ合っている。

やがて集まってきた魔力が、互いの境界で渦を巻き始める。

聖者から流れた魔力が、シノレの手を伝って剣に流れていく。


「…………っ」


 そして、強烈に撥ねつけるような反発と拒絶が起こった。

逆流した力がシノレを素通りして聖者に叩き込まれる。

聖者の上体が弾かれたように反応し、直後脱力した。

顔からは血の気が引いている。


 それから何度も同じことを続けた。

続ける内に聖者の顔色は一層酷くなり、呼吸は荒れて何度も肩で息をする。

元々少し茫洋とした印象のある、焦点のあやふやな目が、いよいよ朦朧とした感じになってくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ