試行
「シノレ。分かっていると思いますが……
くれぐれも、軽々しく使おうとするようなことは……」
「当たり前でしょ。言われるまでもないよ」
竜を滅した時のことを思い出す。
恐ろしいほどの勢いで膨れ上がっていき、爆発した力。
何が何だか分からなかったが、軽々に使ってはならないものだということだけは分かる。
あんな力を持たされても、身に余る。
人には分相応というものがあるのだ。
力を得れば色々付随物が出てきて、妬んだ者に付け狙われるというのが常識である。
これ以上の面倒事は真っ平だ。それが正直な感想だった。
「ていうか、寧ろ管理しきれるかが不安なんだけど。
何かの弾みで悪用でもされたら、街一つくらいは吹き飛ぶでしょ。
本当に大丈夫なの?」
「まず悪用される恐れはありません。
そもそも、貴方にしか使えませんから。
……或いは他に条件を満たす者がいるかもしれませんが、その場合は私がそれと分かります」
断言してから、一応補足するように添える聖者である。
話しながら、聖者は魔力を使って櫃の封印を解いていた。
「……上達しましたね、本当に。見違えるようです」
聖者は妙に嬉しそうに、静かに微笑む。
深く一礼してから手で櫃を開け、そしてこちらに手を差し伸べる。
「……試したいことがあります。
剣に触れたまま、もう片方の手を私に下さいますか」
シノレは疲労を吐き出すように、深く息をついた。
何を試したいのか知らないが、まだ解放はされないらしい。
剣については正直彼としても手詰まりな感じがあったので、否やはなかった。
大人しく剣の柄に手を置き、聖者に手を差し出す。それはすぐに握られた。
片手には剣の冷たく無機質な感触がある。
反対側では肌と内側の肉が、脈打ちながら触れ合っている。
やがて集まってきた魔力が、互いの境界で渦を巻き始める。
聖者から流れた魔力が、シノレの手を伝って剣に流れていく。
「…………っ」
そして、強烈に撥ねつけるような反発と拒絶が起こった。
逆流した力がシノレを素通りして聖者に叩き込まれる。
聖者の上体が弾かれたように反応し、直後脱力した。
顔からは血の気が引いている。
それから何度も同じことを続けた。
続ける内に聖者の顔色は一層酷くなり、呼吸は荒れて何度も肩で息をする。
元々少し茫洋とした印象のある、焦点のあやふやな目が、いよいよ朦朧とした感じになってくる。




