帰路
月が昇るに連れて宴が暮れ、お開きの少し前に聖者は退席することになった。
よく見ると、徐々に人も減ってきている。城に呼び寄せられ、客室を用意された者たちはまだ少し語らうようだ。
面々に挨拶をし、シノレを連れて聖者は外に出た。
「……それで、今月中またあんなことやるの?」
「そうですね。レイグ様も仰った通り、今月中にエルク様がいらっしゃるそうなので、その際にはまた。
ですがその時までは、シノレが出席する必要はないかと……」
「そっか。……ああ何か疲れたな……」
シノレは聖者と二人、帰路につきながら、溜まりきった疲労を吐露していた。
聖者は今回はそこまで消耗しなかったようで、比較的しっかりした足取りで歩いている。
「そうですね……仕方ないことだと思います。
こういうものは、どうしても慣れに左右されるところが大きいですから」
ですが、そう付け加えて。聖者はシノレを見つめ、少し考える素振りを見せた。そしてこう持ちかけた。
「シノレ、部屋に寄っても良いですか。休む前に少しだけ、私の話に付き合って下さい」
扉を開き、中に入る。その後に続いてきた聖者が、後ろ手に戸を締めたのが分かった。
聖者から魔力とやらがふわりと広がり、煙幕を張るように周囲に立ち込める。
恐らくは人払いのためだろう。振り返った先の聖者は、ただ静かな目をしていた。
聖者の申し出を、シノレはすぐに承諾した。確かに疲れはあるが、話もできないししたくないというほどではない。
そもそも聖者は忙しい。今では竜を討った聖なる聖者様と崇められ、自分より遥かに多忙の身だ。
会いに来ても、蒼白な顔色をしていることも少なくない。余力がある時間は貴重なのだ。話があるのならできる時にしておくべきだった。
招き入れた部屋の中央。そこに傲然と鎮座するのは、現在シノレが、『黎明』ひいては大公家の剣ではと仮定している厄介物だ。
現在はシノレに櫃ごと封印され、余人の手では開かないようになっている。
床に膝をついた聖者はつかの間それに目を落とし、そしてシノレに真剣な目を向けた。




