社交界の本質
それこそが社交界の本質と言えた。
怒涛のような値踏みと探り合い、その波に揉まれながらも積み上げてきた功績と名声こそが、その家の最大の資産となる。
それこそ、実質的な財力などよりそれは遥かに重んじられる。
経済的成功は一代で手に入れうるものだが、家に対する社会的信頼は何世代、何十人もの人生をかけて育んでいくものだからだ。
数世代の派手な成功よりも、十数世代の地味な貢献の方が尊い。
だから彼女たち一族も、苦労してきたわけだが……。
(今回の話を家に持ち帰れば……)
きっと、一族中欣喜雀躍することだろう。
亡き曽祖父も本望であろう。
思いも寄らない追い風が吹いた今、立ち回りを間違えなければ、急激な浮上が期待できる。
実際一連のやり取りで、セシル自身の価値も変動したことを周囲の視線から感じ取っていた。
けれど、だからこその危険もあった。
ここからは一層慎重な立ち回りを求められるだろう。
親族たちがあまりに浮足立つようならば、気を引き締め直すよう促すべきだろう。
――社交界の本質とは、自然界に通じるものがあるとセシルは考えている。
この絢爛な戦場において、どれだけ長期に渡って影響力を維持することが叶うか。
強固な地盤を築き次世代に引き継ぐには、敵と味方を慎重に見極め、婚姻戦略を駆使する必要がある。
全てを上手くやれば、数世代で使徒家に辿り着くことすら叶うだろう。
しかし、そこに至るまでに膨大な関門と危険を潜り抜けなければいけない。
それには才覚と自制心、勿論運も必要だ。
結局は才ある者の血が生き残り、世代を超えて進化していき、そうでない者の血は淘汰されて衰えていく。
そのような、自然淘汰にも似た厳しい仕組みが根幹にあるのだと思う。
重要な点は才なき者は静かに消えていき、才ある新参者は時間を掛けて受け入れられるということだ。
だからこそ、成り上がり者には一分の隙も許されないのだ。
「…………」
レイグもまた周囲の空気から、裁定を求められていることを察した。
同じく敏感に空気の変化を感じ取ったのだろう側近も、静かな声で最終判断を求めてくる。
「……当主様、対処はどう致しますか?先程の件、処罰しておくべきでしょうか」
「いや、良い。……だがああしたことは、聖者様のいらっしゃる場所ではするな。
あの方は、その手のもてなしがお好きではない。
それとなく周知させておけ。
……ブライアンに対しては後で私から言い聞かせておくから、そちらの口出しも無用ともな」
こういう行動は序列を乱しかねないから推奨されないし、聖者も控えていたはずだが。
元々クレドアのことはそのうち引き立てるつもりだったし、然程問題はない。
聖者もそれを承知の上で、ああ振る舞ったのだろう。
そして、レイグは気づかれないよう、それとなくため息を吐き出した。
因縁の相手サフォリアの動向も気がかりどころではないというのに、面倒事は積もっていく一方だった。




