竪琴
「ここに稀代の竪琴の持ち主と、竪琴の弾き手たる姫がいらっしゃる。
この偶然には天の配剤を感じます。
妙なる音色と聞く噂の竪琴で、姫の演奏を聞いてみたいと、そう私は思います…
…如何でしょうか、オルシーラ姫」
「……そうですね。お耳汚しでしょうが、折角の聖者様のご要望です。
お応えしたいと存じますが……
ご承認頂けるでしょうか、クレドア様」
「は……それはもう、聖者様のお望みとあらば……」
「……それは素晴らしい趣向ですね、聖者様。
是非場所は私に提供させて頂けるでしょうか」
水を向けられたレイグは穏やかに首肯した。
聖者の挙動を見て、自分も仲裁に入る気になったらしい。
近くにいた彼はそのままオルシーラと会話を始める。
「今月中に、ワーレン家のエルク様がこちらにご到着なさる予定ですので、その際また大規模な宴を開くことになるでしょう。
その時にでも姫の演奏を披露して頂ければと思います」
「ええ、喜んで。そのような大役、緊張してしまいますけれど……
精一杯花を添えますわ。
それでは私も、練習と準備を進めておきますね」
「それは光栄です。何かご入用のものがあれば遠慮なくお申し付け下さい」
「ありがとうございます、レイグ様」
両者のやり取りを見届けて、聖者は仄かに安堵した色を浮かべた。
更にクレドアの方にも優しく笑顔を向け、「楽しみにしておりますね」と駄目押しした。
相手はすっかり気を削がれたようで、曖昧な肯定と笑みを返す。
そして更に、聖者はオルシーラを見つめ柔らかく誘い出した。
「……オルシーラ姫、少し外に出てみませんか?
私で宜しければ、庭園をご案内致します。
この時期でなければ咲かぬ花もありますし……是非姫のお目にかけたいです。
如何でしょう?」
「はい、勿論です。聖者様にお誘い頂けるなんて光栄ですわ」
「良かった。では参りましょう」
美貌の少女二人は、親しげに微笑みあって、その場を後にしたのだった。




