余所者扱い
その後も色々説得を続け、駆け去った令嬢をシオンが連れてきたことで二人は合流した。
再会した二人は先程よりも大分落ち着いた顔をしていた。
後は当事者同士で何かしら決着をつけるだろう。
空の頂点で高々と輝いていた日も、気づけば大分傾いていた。
まだ辺りは充分明るいが、これから徐々に暗くなってくるだろう。
自分が何かしたわけでもないのに、鈍い疲労感があった。
ユミルとシオンが何事か話し合っているのを見ていると、そこに聖者がやって来た。
「シノレ、そろそろ……」
「ああ、はい。今行きます。……ユミル様、シオン様、ありがとうございました。そろそろ失礼します」
「はい、ありがとうございました!気を付けて!」
「こちらこそありがとうございます、シノレ君」
金髪の二人に笑顔で見送られ、聖者と一緒に社交場に戻ると、当初とあまり変わりはなかった。
訪れる誰もが、一瞬でも多く聖者の視線や時間を向けて貰おうと苦心している。
彼らにとっては聖者と対面し、話ができること、それこそ無上の栄誉なのだ。
そして聖者は静かな笑みでやり過ごし、時には祝福を与える。
それがいつもの、お決まりの光景だった。
時間が経つにつれ、シノレはじわじわと焦燥を覚えだした。
大丈夫なのだろうか。
このままでは当初の予定と任務が果たせないのではないか。
人と話が途切れたところを狙い、シノレは声を掛けた。
「ねえ、オルシーラ姫の件はどうなったの?この調子だと、終盤に入ってからになるんじゃ?それで大丈夫なの?」
「そうですね、そろそろのはずですが……予定が押しているのでしょうか。少し、様子見に行ってみましょうか」
見知らぬ男がオルシーラに話しかけ、オルシーラはそれを微笑で受けている。
周囲に順番待ちらしき人影はなく、どうやらこの男が聖者の直前の相手のようだった。
耳を澄ますと、穏やかながらもどこか不穏なやり取りが聞こえてくる。
「……ええ。こちらでの皆様の数々のご親切、有難きことと受け止めておりますわ」
「如何にも、そうでしょうな。何しろ大公が直々に、今回の件でロスフィークへの征伐をお認め下さったのですから。これは大公家が、二百年を経て教祖の正しさをお認めになったということでは?」
「……そこは私の判断すべきところではありませんが、教団の素晴らしさは日に日に感じるものがあります」
……少し話を聞いた感じ、どうやら異教徒の話題で絡まれているようだった。
教団と長らく敵対するロスフィークへの言及。
更に二百年前、時の大公が教祖ワーレンを追放した経緯。
教団との協調のために半ば差し出したのだとしても――いやだからこそ、大公家としては、あまりつつかれたくない事柄だろう。
オルシーラは肯定も否定もせず巧みに言抜けているが、相手は一向に引き下がろうとしない。
「ほう、これは……」
「あらまあ、どうなるやら」
それを見守る観衆は小さく囁きながら、しかし誰も助けを出そうとはしない。
寧ろ誰もが物見高く、どこか値踏みするような視線で窺っている。
冷ややかな視線に取り巻かれても、オルシーラは背筋を伸ばして凛と立っていた。
それに感嘆すると同時に、どこか冷たいものを感じた。
(ああ、そうなんだ)
結局はこうなのかと感じた。
オルシーラがここに来てから、宴など催して様々な歓迎を受けているとは聞いていた。
しかし結局、どれだけ歓待されても、彼女は余所者扱いなのだと――シノレはそう感じた。
そんな、冷めたような白けたものが胸に広がるが、表情には出さない。
ただ何気なく聖者の後ろ姿を見つめ、それが動いたのを見た。




