事の起こり
事の起こりは、先代教主の死まで遡る。
先代教主が楽団の死兵に殺されたことで復讐戦が開始され、それが今日まで続いていることは周知の事実だ。
何しろ当時の教団ときたら、先代教主が殺された憤激に狂い、誰もが声高に復讐を唱えるような日々だった。
実質弔い合戦が終わるまでが服喪期間という雰囲気になり、祝い事も自粛されるようになってしまった。
その煽りを受けたのが、丁度その頃婚期を迎えた若者たちだ。
何しろ当時の空気が空気だ。
先代教主の喪を悼み復讐に明け暮れる中で結婚式などしても誰もこないし、どころか反感を買うだけである。
その頃の教団で結婚とは、諸事情からどうしてもと望み、かつ必要と認められた場合だけひっそりと行うものだった。
けれどそうして式を済ませる者は多くはなかった。誰にとっても一世一代の晴れ舞台、できるだけ華やかに行いたいのが人情というものだ。
多くの者たちは見送ったし、ブライアンたちもそうした。
だから今現在、教団の若者たちは婚期を過ぎても独身の者が多いのだ。
けれど今となっては、何をおいても式をあげておくべきだったと思う。
去年の暮れから徐々に服喪の風潮も緩んできて、魔の月もめでたく明けて。
そしてやっと、待ち侘びた晴れがましい挙式を目前とした時。
その矢先に巻き起こったのが、件の夫人の醜聞だ。
ブライアンにとっては青天の霹靂だった。
先代教主の死が齎した長い服喪期間、それが明けて結婚が間近に迫り、幸福まであと一歩というところで、全てがひっくり返されたのだ。
彼の家はセヴレイルの分家筋であり、派閥全体で見てもそれなりの位置にある。
だから、結婚関係も慎重を期すことが当然であった。
家族はこの話を聞くや途端に掌を返し、結婚に反対するようになった。
ついこの前まで彼女のことを「良いお嬢さん」と褒め称えていたその口で、流言と罵倒を並べ立てるのだ。
彼が婚約者を必死に庇うことに対しても、不埒な娘に媚びられ誑かされたのだと断じられる始末。
家庭内でも意見が対立し、彼は段々と精神的に追い詰められていった。
「どうしてもと言うなら妾にしろとまで言われ……つい頭が沸騰してしまって。
そしてこの度、ルーセン様がお越しになると知ったので、衆目の前でお許しを頂ければ周囲の態度も軟化し、いい方向へ進むかと思ったのです」




