オルシーラの見た教団
それらはオルシーラの耳にも届いていた。
血統の保持。確かにそれは大切である。
嫡流、直系、男系。
どのような家の場合でも、当主の血統はこの三要素を満たすことが望ましく、欠けている場合どうしても社交界では軽んじられることになる。
それは騎士団でも同様であった。
この場合だと、当主は不義の子を廃嫡し、一旦弟であるルーセンに継承権を移す。
当主の再婚次第でその後は変わってくるだろうが、どちらに転ぶにせよ、罪もないその子は生涯に渡り、一家の継承権を完全に失う。
この例に限った話でない。
仮に庶子だけで嫡子が生まれないと言う場合。
不完全な三要素を庶子の血統で補填する必要が出てくる。
跡を継ぐべき嫡流が女系だと言うならば、男系の庶流と子世代か孫世代で血を一つにする。それしかない。
それは極めて非情で、そして合理的な方策だ。
畢竟庶子の存在意義とは、その本質とは、嫡流に何かあった場合の血統の予備だ。
更に言えば、才ある市井の血を取り入れ、家同士の結びつきを強化した上で血の濃化を防ぐことでもある。
嫡子の補佐云々などは結局のところ後付であり、主眼はそれだろう。
……一夫一妻と貴賤結婚禁止を徹底し、結果として早婚血族婚が加速したために貴族が激減し、それが今日の衰退に繋がっている騎士団出身としては、なんとも耳の痛い話である。
一連を何食わぬ顔で立ち聞きしたオルシーラは、諸々の分析をそんな風に纏めた。
そうしながらも次々来る客たちの挨拶に、にこやかに受け答え捌いていく。
世継ぎであったために常に人に囲まれていた兄と違い、オルシーラは姫であるために半ば放置されてきた。
することも特になかったので、彼女は何年もの間書物を読み漁り、絶えず周囲を観察していた。
それはもう、今となっては半ば習性と化している。
まさか、こんな風に役立つとは思わなかったが。
(……騎士団の事例を戒めにしただけあって、こちらの欠点が粗方潰されている。
ある意味嫌味だけど、それ以上に見事なものだわ。
教祖の時代から、たった二百年でよくもここまで)
かといって、教団の制度が無条件に優れているなどと言うつもりはないが。
繁栄や拡大に優劣は殆ど関係なく、結局のところ時勢に合うか否かが全てだ。
(……騎士団は時代に取り残された。
このままでは生き残れないことは分かっている。
そして、だから、これから生き残るためにも私は……)
脱線した思考に一つの結論を出して、オルシーラは出ていった男女、そしてそれを追っていった騎士たちのことを頭から締め出した。
社交の時間は夜まで続くのだ。
彼女としては、既に視界からいなくなったものに気を取られている暇はなかった。




