萎縮する令嬢
(そうだ、これは……)
レイグと初めて会った時も感じた。
見世物小屋の檻の外から、檻の中に注がれる視線と同質のものだ。
不気味で醜怪で、そしてどこか滑稽な珍獣を見るような目。
しかし、そんな目線を集める要素があるだろうか。
素人目だが、令嬢の身なりや振る舞いに変なところがあるわけではないと思う……しかし本人は、どこか青ざめて、萎縮した様子だった。
「ルーセン様。……御機嫌よう」
「これは……お元気そうで何よりです。先日はご懇篤な文を頂き、ありがとうございました」
声を掛けた先にいたのは、上品な身なりの、初老に差し掛かった男だった。
そして彼らは向き合い、作法通りの挨拶を交わしたのだが、そこには何か異様な緊張感があった。
何と言うか、非常に気まずそうな空気である。
ルーセンと呼ばれた男の方もどういった顔をしたものか決めかねているようで、誤魔化すように何度か咳払いをする。
「えー……ブライアン殿。それにリヴィア嬢。お二方は、ご結婚を目前としておられるそうですね」
「……はい。困難も数多くあるでしょうが、彼女となら越えていけると思っています」
「……どうぞ、お幸せに。我が家のことをお気になさる必要はありません。
お二人の前途が幸いであるよう、私としても願っております」
その言葉の何が起爆剤だったのか。場の空気が更に揺れた。
緊迫感は最高潮に達し、歪んだ圧力すら生じているかと思わせた。
言うべきことは言ったと判断したか、ルーセンはそそくさと距離を取り、別の相手の方へ向かった。
その姿は深々と頭を下げた彼らはそのまま、周囲への挨拶をし始めた。
ブライアンという男の方は社交には不似合いなほど真剣な顔つきで、周囲に何か言って回っているようだ。
その隣で、リヴィアと呼ばれた令嬢は遠目でも分かるほど青い顔で震えている。
耐えきれないと言う風に顔を伏せるその姿に、更に不躾な視線が突き立った。
何か、事前に伝わっている暗黙の了解や前提があるようだが、シノレにはさっぱりだった。
やがて次の相手に何か言われたらしく、リヴィアの細い肩が大きく跳ねた。
声もなく俯き震えた後、やがて彼女は身を翻し、忙しない足取りで去っていく。
ブライアンの方も一拍遅れて、慌てた様子でそれを追っていった。
「…………?」
一連の事情が分からず、眼の前の出来事に困惑するシノレの眼前で、白い上着の裾がばさっと広がった。
その向こうから、きっぱりと元気のいい声が聞こえてくる。
「シノレ、ブライアン殿を追いかけましょう!」
「は!?」
「ええ、そちらはお願いします。私はご令嬢の方へ行きますね!」
止めるかと思われたシオンまで、一緒になって追いかけるつもりのようだ。
何なんだこの流れ。
訳が分からないまま、シノレも彼らと一緒に動き出した。




