小休憩
それから暫くして、人波から抜け出した彼らは、露台から中の人の動きを見守っていた。
露台と言っても廊下一本分は入るだろう広いところだ。
外の景色と中の様子が一望できる。辺りは陽光で明るく、時折給仕たちが行き来していた。
彼らから受け取った杯を渡され、束の間の休憩に入る。
といってもシノレは特に疲れたわけでもないので、ただいつも通り辺りのものや人を観察していた。
彼ら三人の他にも何人か人はいた。
時折ちらちらと視線は寄越されるが、話しかけてくる様子はない。
どうやらこの場所は休憩場として提供されているようだった。
賑やかに喋る者はなく、どこか寛いだ静けさがある。
そこまで見て取ってから注意を移し、手に持った杯を見つめる。
銀ではないだろうが、暗く沈んだ銀灰色の小さな杯だ。
中には薄く黄色を帯びた透明な液体が数口分ほど入っている。
小さく舐めると、甘い香りと爽やかな酸味を仄かに感じた。
「これは……何でしょうか」
「水に、柑橘の汁と花の蜜で風味を付けてありますね!宴では良く出る飲み物です!」
「そうなのですか?……お酒の類は……」
「流石にお酒は夕方にならないと出ませんね。余程の慶事であればまた別ですが……」
そうなのかと思う。聖都やエルフェスでも色々参加はしたものの、まだまだ不慣れだし知らないことも多い。
戸惑うシノレを余所に、隣の少年は中身を一気に飲み干す。
だが、それでは足りなかったらしい。物足りなさそうな顔をし、俄に空腹を自覚したように腹を抑えた。
少しの間そわそわとした素振りを見せ、やがて彼は言い放った。
「……お腹減りましたね!何か軽食でも取ってきます!」
「あ、ユミル様!あまり遠くへは行かないで下さいね!」
「はい、待ってて下さいシオン!」
そう言って元気に駆けていったユミルは、しかし中々戻ってこなかった。
どうやら顔見知りを見つけたらしい。向こうで誰かと何かを話している。
表情は見えるが、内容はここまで聞こえない。
少なくとも困ったり焦ったりしている様子はない。いつも通り活気のある笑顔だ。
いつの間にか潮目が変わったのか、先程のように取り囲まれそうな感じでもなかった。
窓枠越しに揺れ動く絹のさざめきは目に鮮やかだ。
中でどんな暗闘が繰り広げられているにせよ、この場の空気は長閑だった。
故にどこかぼうっとしていたのかも知れない。




