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使徒家嫡男

「おお、このようなところでお見かけするとは。

お元気そうで何よりです、ユミル様」


「これはユミル様。弟君のご誕生、おめでとうございます。

お祝いをお届けたしたのですが、その後も変わりなくお過ごしでしょうか」


その後も歓談や挨拶を求める人は次々やって来て、切れ目がないほどだった。

レイグも言及したように、弟の誕生祝を告げる声が特に多かった。

シノレには、良くまあ他所の家庭の赤子のことなど把握しているものだと思うが、ここではそれが当然らしい。

流石に上流育ちと言うべきか、彼らはそれに全く狼狽える様子もない。

シノレは時々来る言及を無難に流しながら、その一部始終を見守っていた。


「これはユミル様、お久しぶりです。

暫くお目にかからぬ間に、大きくおなりですな」


「はい、いつもありがとうございます!」


ユミルは会った人毎に元気よく挨拶し、誰が相手でも溌溂とした笑顔で屈託なく返す。

その振る舞いに、多くは好意的な目を向けていた。やがて一人がこう言った。


「そう言えば……ユミル様は、ご婚約はまだお決まりでないのでしょう?

未だ実感は湧かないかもしれませんが、現時点でどのようにお考えですか?」


「それは父と母が決めることです!

僕はその決定を受け入れるだけですが……できれば、元気で楽しい方だと嬉しいですね!」


おい何言ってるんだと、聞いていただけのシノレでも思った。

そんなことを言ったら……ほら、周りの人間が皆猛禽の目をしているじゃないか。

この台詞、一日と経たずに社交界の隅々まで広がるんじゃないか。

そう思わせる空気だった。


それからの会話、特に娘がいるらしき親たちの売り込みは壮絶なものだった。


「うちの娘は風邪一つひいたことがないのです。健康自慢は母方の血ですな」だとか


「我が娘はお転婆なのですよ。馬で野原を駆け回るのが何より好きという案配で」だとか、


文脈をぶった切ってまで事あるごとに挟んでくる。

思わぬ流れで露呈した使徒家嫡男の好みに、食いついてくる者は思いの外多かった。

挙げ句にそんな売り込みをする親同士の睨み合いにまで発展しそうになったところで、


「ちょっとこれは人気過ぎますね……!

一旦退避しましょう、お二人共。

恐れ入ります、少々場を外しますね」


人波を割って駆けつけたシオンのそんな言葉によって、起こりかけた騒動は終結したのだった。



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