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月の始まりは良く晴れた日で、雲一つない空に太陽が煌々と輝いていた。

徐々に日差しが強まり、陽気が暑さに変わってくる。

これからはもっと厚くなるだろうなと、そう思った。


今日から新たな月が始まる。

シアレットの城の大広間では、それに合わせて宴が開かれていた。

先月に何度もあったことだが、今回のものは昼間から夜間まで広げられる長丁場だ。



騎士団の姫は変わらず、良くも悪くも注目の的のようだ。

人垣の向こうから、華やかなドレスの裾が見え隠れしている。

それを見たシノレは、聖者にひそひそと語りかけた。


「……流れで僕のこと、紹介することになったって話じゃなかった?

あっちに行かなくていいの?」


「そうです……ですが、オルシーラ姫の方も色々と付き合いがあるようなので、すぐにというわけには……」


「ああ、そっか」


どうやら相手の方も、入れ代わり立ち代わりやって来る客の対応に追われているらしい。

混雑を避けるためにも、ある程度相手と時間を割り振りしているらしい。

時間が来たら知らせるから、それまでは適当に過ごしていてほしいと予めレイグに言われていたらしい。


「聖者様、シノレ!」


暫くしてやって来たのはユミルだった。

いつもの汚れることが前提の動きやすい服装とは違い、洒落た刺繍入りの礼装をかっちりと着込んでいる。

その後ろには華やかな騎士装束のシオンもいた。

相変わらずドレスは着る気がないようだ。

確かあれは、近衛騎士の正装だった気がする……聖都で何度か見た意匠を思い出した。


「ユミル様……お久しぶりです。

聖都でお会いした時以来ですね。

そう言えば、こういった席でお顔を見ることも無かった気がします」


「はい!僕は成人前なのであまりこういう席には出ませんが、今日は特別です!

月初めだからとレイグ様がお招き下さって、シオンもついてきてくれたんですよ!」


「ええ。ユミル様、我々はカドラスの名を負っているのです。

泰然と優雅に、そして凛々しく参りましょう」


「分かっています!頑張りましょう!」


いつもと全く変わらないその語気に、分かっていなさそうだなあと思ってしまったシノレである。

ここまで彼はやり取りを横で聞いていただけで、まさか自分に水が向けられるとは思わなかった。

それが、次のユミルの一言で風向きが変わる。


「……それで、聖者様。シノレと少し、この辺りを見てきても良いでしょうか?」


申し出に、聖者は少し戸惑うようにした。

必要な時は仕方がないし、最近は緩和されてきたが、聖者は基本的にシノレとあまり離れたがらない。

その理由の全容は分からないが、根幹にあるのは恐らく、シノレを庇護しなければならないという責任感なのだろう。

その時も、やや悩んだ素振りをしてからシノレを見つめ、聞いてきた。


「……それは……シノレ。貴方は、どうしたいですか?」


「そう、ですね……では、少し周囲を見てきても良いでしょうか」


聖者の周りは相変わらずだった。

誰もが陶然と讃え神々しさを伏し拝む。

面子を変えてそれが繰り返されるだけで、聖者の対応もほぼ一律だった。

このまま聖者に張り付いていたところで、何か実りがあるとも思えない。

それに、ここにいては重要なものが見えない気がした。


「分かりました。あまり遠くへは行かないで下さいね。

……ユミル様、シノレがこう言っておりますから、どうぞお連れ下さい」


「ありがとうございます!それと。その……」


躊躇っているのか、珍しいことに少しだけ歯切れが悪くなる。

常にはきはきと元気な喋り方は鳴りを潜め、やや緊張した様子だった。


「あの……聖者様。宜しければ今度、じっくりとお話を伺わせて下さいませんか?

勿論お身の回りが落ち着いてからで良いのですが……」


「ああ……そうですね。確かに、シアレットでは何かと立て込んで、ユミル様とはこれまでお話できませんでした。

こちらこそ、近い内にお招きできたらと存じます」


「はい、楽しみにしています!嬉しいです!」


金髪の少年はぱっと顔を輝かせた。

頬の紅潮や目の輝きから、憧れと喜びが迸るようだ。

聖者もそれに、どこか微笑ましそうな風情で笑顔を返す。

聖者にしては珍しい反応だった。

どんなに熱狂的な賛辞を受けても、冷ややかなほどに淡々としているのが常なので、その表情に少し驚く。

だがそれに浸る間もなく、ユミルに引っ張られてシノレはその場を離れた。


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