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シアレットへ

「…………何か、御用でしょうか?」


「ええ、勿論そうですが…………しかし、その前に。大分遅れましたが、誕生日おめでとうございます。これで君も大人ですね」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

きっと数秒ほど呆けた顔を晒していたと思う。

兄はそれに穏やかな眼差しのまま、小さく笑う。


「十五の誕生日は、やはり特別でしょう。

祝いは贈りましたが……直接言うことができず、気になっていたんです。

言い訳になりますが、何分色々立て込んでいたもので」


「そのような……勿体ないお言葉です。

ご多忙の中でお祝いを頂けただけでも、望外の光栄と思っております。

……これからも猊下のお役に立つため、より一層励んでいく所存です」


「そんなに緊張することはありませんよ。

気負う必要もありません。

ですが、そうですね。君が力を貸してくれるのなら、嬉しく思います」


「……勿論です。何なりとお申し付け下さい」


 正直、この流れにはとても驚いた。

確かにエルクは、一月ほど前に誕生日を迎えてはいたが、元々春は新年の季節だ。

その慌ただしさに流されて、あまり注目されないことが当然だった。

これまで兄が、エルクの誕生日を気にかけたことなど無かったのだ。

祝いは確かに毎年届いたが、それにしたって側近が万事計らっていることで、兄本人は自分の誕生日など把握していないと思っていた。

思わぬ不意打ちに彼の感情は乱れてしまったし、応答にも動揺が出てしまう。

そこを突くかのように、兄の優雅な声が流れ出た。


「エルク」

「…………は、い」


 その呼びかけにエルクは小さく背筋を震わせ、姿勢を正した。

見つめられ、呼ばれる。それだけで威儀を正してしまう。

昔から、そんなところが兄にはあった。


「こうして呼んだのは他でもありません。

シアレットへ……聖者様の御元へ、私の代理として行って欲しいのです」


「…………!」


 兄の言葉に、全身が一気に緊張するのを感じた。

ばくばくと、鼓動がうるさく鳴って収まらない。

続く兄の声も、少し遠くから聞こえてくるように思えた。


「オルシーラ姫が既にシアレットに入ったという話は、君の耳にも届いていますね」


「……はい」


「……これが一貴族の子弟であれば、レイグたちだけで充分なのですがね。

大公の妹姫となれば話が変わります。

先方との友好を思うなら、こちらも誠意を示さねばなりません。

そして一度同盟を受諾した以上、中途半端は避けるべきです。であれば……」


「……はい。ぼ、僕が……行くべき、でしょう」


 かなり緊張しながら綴った言葉だった。

自分が教主の弟であると、言外に主張したようなものだったからだ。

本来、相手を兄弟扱いすることは両親を同じくする間柄でしか認められない。

庶子の身で、それは相当な勇気がいることだった。

ひょっとしたら兄が気を悪くするかもしれないと思ったが、兄はその緊張を別の意味で受け取ったようだ。


「……そう緊張することはありませんよ。

あそこは教団領の中でも主要な都市ですし、早々滅多なことは起きないでしょう。

シオンやを始め、カドラスの騎士たちも詰めてくれていることですし……」


「え、シオン様が?」


 思わぬ名前に少し驚いて、問い返してしまう。

兄もその反応は意外だったのか、答えるまでに少し間があった。

そして返ってきた答えを、エルクは不思議な気持ちで復唱した。


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