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麗しのエルヴェミア

 贅を尽くした部屋だった。


上品な色味の天井から吊り下げられたシャンデリアは燦然とした光を投げかけ、辺りのものを浮かび上がらせる。

数多の水晶は光を受けて輝き、部屋全体に細やかな陰影を落としていた。


 金糸を織り込んだ精緻な唐草模様の絨毯の上には、磨き抜かれた上質な調度が整然と配置されている。

中央に据えられているのは、艶やかな色味をした黒檀の卓だ。

そして絹張りの肘掛け椅子には人影がある。


その向かいの壁際にはその一面と同じ寸法の名画が飾られていた。

黄金の輝きを放つ荘厳な額に入れられたそれは宴の風景を描いたもので、着飾った男女が何人も描かれていた。

それはまるでこちらを値踏みしているかのようで、来訪者を圧する迫力を生み出していた。

その傍、絶妙な位置に大理石の彫刻が置かれ、それも見る者に溜息をつかせるような精緻なものだ。


 そこにある全てが調和しあい、一切の無駄もなく洗練されて、一つとして凡庸なものはない。

全てが主人の財力と趣味の高さをこれでもかと見せつける。

カーテンは締め切られているが、その奥の窓辺にも流麗な装飾がされていることは明らかだ。

そして全体に、薔薇と麝香を交じえた甘く優美な香りが漂っていた。


 黒檀の卓の上には杯が二つ置かれていた。

ふんだんに入れられた氷が溶け切り、すっかりぬるくなっている。

ここまでかかった話もいよいよ佳境だった。

しずしずと歩み寄った伏し目がちの初老の女が、穏やかな挙措で茶を換える。

ついに手を付けられずに放置された茶が下げられ、新たなものが差し出された。

薄い玻璃の杯の中で、楕円に削られた大きな氷が澄んだ音を立てる。

そこに、レースの手袋に包まれた繊手が伸びる。


「――お話は分かりました」


 部屋の女主人は、優美な猫足に支えられた長椅子の上だった。

複雑に結い上げた琥珀色の髪と、艶めく紫の目。

極上の生地を惜しげもなく使ったドレスを広げ、優雅に掛けている。

そこに座っている、ただそれだけで一服の絵画を目にしたような感銘を人は覚えるだろう。それほどまでに美しい女だった。


 若いというわけではない。

その肌には瑞々しさよりも寧ろ、円熟した柔らかさがある。

目の周辺には皺があるが、それすらも時間が女に捧げた芸術のようで、美貌を引き立てるものでしかない。

微笑み一つ、目の動き一つにも色香と気品が漂い、美の化身と称すしか無い美しさであった。


レースに包まれたなだらかな首と肩、品良く盛り上がった胸の下には優雅にくびれた腰があり、ドレスの裾へと流れ落ちる様は、完璧な稜線を描いている。

どこを見ても完全に均整の取れた、命ある彫刻の如き姿であった。

豪華絢爛なドレスに縫い付けられた宝石もレースも、熟練の職人の手になる最上級品で、その全てが命ある芸術品のようだった。

まるで彼女の身を飾る栄誉を誇るかのように、各々の位置で存分に自らの美しさを主張している。


 今現在、この世で最も美しい者は誰か?

そう聞かれたら、教団の者の殆ど、聖都の教徒に至っては全てが口を揃え、「聖者様だ」と返すだろう。

しかし、ところが変わればその答えは変わってくる。


 楽団においては恐らく、半分以上の者が彼女の名を挙げるだろう。

弱肉強食の理に貫かれた、強烈な男尊女卑社会である楽団にあって、社交界を統べ、男を操り、美の女神として君臨する存在。

四十の半ばを過ぎて尚当代一の美女との呼び声高い――


それが、麗しのエルヴェミアであった。


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