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総帥の使者

 ゼファイは特大のため息を吐く。

そして呻くような、憚るような声で問うた。

それは先程までの喚きとは明らかに違う、重く苦いものだった。


「――……ザーリア―の封印は、やっぱ無くなったのか?」

「まだ決め込むのは早計でしょうが。その可能性は高いでしょうね」


 白竜を屠った光。あれはトワドラでも大変な騒ぎとなった。

畢竟、老師や賢者たちが外界への増員を決めた決定打はそれだったのだ。


流石にあんなものが出てきた以上、医師団も高みの見物を決め込むわけにはいかない。

元々総帥との盟約のために使者は出していたが、今の人員だけではそこまで調べられない。


例の光について探求するには手が回りきらないと、それは自明のことであった。

それでも誰が出向するかは揉めに揉め、泥沼を長々と続け、そしてやっと決着がつき――ゼファイがやらされることになった。

ああ全く、あそこで言い負かされなければ…………ゼファイは思い出しても忸怩たる気持ちになる。

ラディスラウはそれを知ってか知らずか、淡々とした独白のように続ける。


「かの術具の調査と追跡、可能ならば確保。

それが我らの真理への道程を縮めるでしょう。

…………そちらの灰の門は、その後変わりありませんか」


「伝えた通り、あの夜を境に見るからに安定しやがったよ!!

これまでの綻びなんて綺麗さっぱり元通り!それもこれも例の剣のせいだ!!」


「そう悲観することではないでしょう……

剣で修復できるということは、剣で破壊することもできるはずです」


 その間も玉の動きは止まらない。

目まぐるしく、息つく間もなく変わっていく計測結果から目を離さず、二人は淡々とやり取りする。

ラディスラウは細い指を動かして、中央付近にあった青い玉を弾き、つつく動きをした。

するとまた盤上が違った動きを見せ始める。

少しの間黙して円盤を見ていたゼファイは、やがて思い出したようにむっと眉を寄せた。


「……というか、君は不満ではないのか?

何年もろくにトワドラに帰れず、こんな雑用に追われ続けて……」


「特には。老師の命令は絶対です」


「ぐっ、この良い子ちゃんめ……!」


 隣から浴びせられる不気味そうな目も意に介さず、ラディスラウは淡々と続けた。


「拙たちはあくまでも記録役。中立の見届人。

総帥の言葉の運び手であるとともに――一切を袖手傍観し、見たまま聞いたまま、あるがままの事象全てを報告するが本分。

余計な私情を挟み、あるべき均衡を崩すことは許されません。それをお忘れなきよう」


「ああはいはい……それで、身共の具体的な役割は?

あの余所者野郎はなんて言ってたんだよ?」


「概ねは拙の代理、継承戦の進行や使者たちの監督ですね。

拙はこれからエルヴェミアと交渉して、それからロスフィークに行きますので、その穴埋めを頼みます。

詳しいことはもうじき――……ああ、本人が来たようです」


 そして扉が開き、彼らと同じ黒衣が覗いた。

現れた赤毛の男は二人を見て僅かに顎を引き、そして静かな足取りで部屋に入ってくる。

その顔には総帥の使者たるを示す、銀色の仮面がかかっていた。

ゼファイは早速彼に向かって、荒れた足取りで歩み寄っていった。

座ったままラディスラウはその後姿を見つめて、聞こえないよう口の中で呟いた。


先程の答えは嘘ではない。寧ろ彼は、少なからずこの状況に期待と高揚を覚えていた。

それは茫洋とした無表情に隠され、顕在化することはなかったが。

密やかな声は、しかし確かに僅かな熱を帯びていた。


「…………ここでなければ見られぬものもありますし――

……これは好機です。もしかしたら、拙が生きている間に宿願を果たせるかもしれません」


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