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総帥の指輪

――こんな話が今日に伝わっている。


百年前に楽団に君臨した初代総帥――つまり、現在継承戦を戦っている者たちの曽祖父であるが、彼がある同盟の仲介を取り持ち、その証として両者に指輪を作らせた。


その後情勢の変化に伴い、一方が同盟を破棄した。

それ自体はごくごくありふれたことである。

そのままならば、誰も気にもとめず忘れたであろう話だ。

しかし初代総帥だけは、これに顕著な反応を示した。

「体面を汚された」「神聖な指輪の誓いを破棄した」そう激怒した彼は、裏切られた側を跳ね飛ばして裏切った側の掃討戦に乗り出し、これを蹂躙したという。


この一件から楽団の慣習では、指輪を介する誓約はそれなりに強制力を持つようになった。


また初代総帥は職人に豪奢な指輪を作らせることを好み、他者のものでも気に入れば召し上げた。

他にも珍しい指輪などを集め、それ用の宝物殿まで作っていたという。

こうした話から、初代総帥が一種の蒐集家……身も蓋もなく言えば指輪狂いであったことは、大抵の者が知る常識だ。


ともあれ、このような歴史的経緯から、楽団で指輪というものはそれなりに重い意味を持つ。

騙し討ちや裏切りが当然の楽団においても、それなりに信頼の担保となりうるものであり、「指輪にかけて」などの誠意を示す言い回しも存在する。


更に継承戦においては、他の兄弟に指輪を預けることは、一時的な絶対服従を意味する。

ブラスエガにいるバルジールがそうであるように。

バルタザールは弟の顔を思い出し、懐かしさにやや顔を緩ませた。


「……つまり、ワリアンドに関しては、決着までどこかに肩入れするつもりがない。

そういうことと思って良いのだな?」


「そうよ。そもそも今のアタシは無頼の身、何かしたくても大したことはできないわ」


「証明感謝する。今のところは、それでよかろう。

それで、ギル坊はどうだ?」


「んー俺んとこも、介入については意見が割れててな。

どっちにせよ、すぐにどうこうってことはないと思うぞ。

俺個人も今のとこ、どっちかと同盟組みたいとは思ってないし」


「そうか、ではこちらで決着をつけるしかないか……

教団のこともあるし、あまり時間もかけられんだろうな」


「教団っていやあ、最近勢いづいてるよなあ!

俺の配下もしょっちゅう教団の話するし、離れちゃいるが要注意って感じだ!」


「ふふ、全くだ。……我らは教団を見、教団もまた我らを見ている」


結局口をつけなかった茶器を、バルタザールは静かに机に戻す。

まあ、挨拶代わりの探り合いはこれくらいで充分だろう。

そもそもエヴァンジルをつつくために来たのではない。


小さく笑みを漏らし、「ところで」と前置きしたバルタザールは、座りながらやや重心を移す。

そうしてから、話したかったことを切り出した。


「紛失真っ最中の、ツェレガのハーさんの指輪だがなあ……どうもあれ、ワリアンドに流れたようなんだ」


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