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楽団の兄弟

ある時一つの国が滅びた

全てが死に絶え朽ち果てた


廃都にひとり残りし賢者

賢者はやがて王宮へ


彼が一足進むごと

かつての栄華の塵が舞う

あらゆる人の夢の跡


たどり着きしは玉座の間

朽ちた皇帝砕けた帝冠


賢者はひとつ涙をこぼし

冠の欠片で指輪を作った


指輪は七つ 黄金色の妙なる指輪

鈴の音鳴らし何処かへ消えた


あとにはただ光の余韻


指輪を探せ

指輪を集めよ

叫び賢者は息絶えた


その輝きこそは鍵

全ての指輪が集いし時

楽園の門は開かれる



「……だからね、そういうわけなのよ」


朝焼けの光に仄白く照らされた州都ナーガルの中枢では、城へ向かって歩く二つ分の人影があった。

二人は歩きながら、何かを話している様子だった。


「古来指輪は特別な力があると思われていたの。

今のは北の方でよく歌われる童謡だけど。

この話はあっちではお伽噺として根強く伝わっていて、今でも一部ではそう信じられているわ」


金髪を流した、背の高い男性が歩いている。

全身を大きな上着で覆っており、顔と手くらいしか見えい風体だ。

しかし端正な顔には化粧が施され、更に男の妖しい美しい雰囲気を引き立てていた。

男性的とも女性的とも言い難い、何とも独特な存在感だ。


その目の先には、道案内らしき幼い少年の姿があった。

少年に向けて彼が低く艷やかな声で語るのは、今に伝わる、誰が語りだしたのかも分からないような――古い古いお伽噺だ。


「……まあ、史実とかではなく、ただの伝説なんだけどね」


そう言い、エヴァンジルは話を締めくくった。


「それで、指輪を集め終えた者は、世界を支配する力を手に入れるって言われているのよ!

継承戦はそれを下敷きにしているんだけど……本当、迷惑な酔狂よね」


「ふーん、そんなことがあったんだ。

俺たちにとっては指輪って、お偉いさんだけのあれって感じだけどなあ。

金貨なんて、そうそう見ることもないだろうし」


「そうなの?まあでも、その金も今の時代は銀に抜かされているんだけどね」


硬貨の価値は下から石貨、鉄貨、銅貨、白銅貨、金貨、銀貨だ。

場所によっては亜金貨などもここに追加されるが、大まかなものはこれらである。


確かに、庶民層なら多くの場合石貨から銅貨で取引を行うだろうし――そこまで考えて、エヴァンジルは思考が脱線していることに気づいた。

ずれていく思考に修正を加える。


今の時代、金は微妙な位置付けだ。

かつては至高の貴金属とされ、権力者たちに愛好された時代もあったと言うが、今やその座は銀に奪われている。

初代総帥が指輪を銀ではなくわざわざ金にした思惑は、今も色々語られ推察されている。

エヴァンジルの私見では、ただ単に黄金の輝きが、彼の人の趣味に合ったのだろうと思っている。


「俺らにとっては銀も金も同じようなもんだよ。

どっちもすんごい高級品ってだけ」


そんなことを話している内に目的地に近づいてきた。

エヴァンジルは慎重に懐を探り、用意しておいた鉄貨数枚を取り出す。

そして目を落とし、斜め前を歩く少年を見つめた。


何だかんだでここまで話が途切れることはなかった。

たまたま目について声を掛けただけだが、中々良い道連れだった。

話自体は使い古された昔語りや、どうでもいいような雑談でも、新鮮な反応と相槌は良いものだ。


「……案内ありがとね、これはお礼よ。

もう良いから、さっさと行きなさい」


「うん!!そんじゃーまたね、エヴァンジル!」


「エヴァ様とお呼び!!!」


ここまでの穏やかな表情はどこへやら、エヴァンジルと呼ばれた男は瞬時に眦を釣り上げた。

小銭を受け取り、少年は手を振りながら軽やかに駆け去っていく。


それを見送ってエヴァンジルは鋭くため息を吐き、大分近くまで迫った城門を見上げた。

高い位置でまとめた、明るい金髪が動きに合わせて揺れる。

ともかく城に入ろう――そう思ったところで、頭上からひょっこり、見覚えのある顔が現れた。


「ニア!?アンタ何してるのそんなところで!」


「……兄さん、久しぶり」


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