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封印解除

そして聖者も、体調が回復していくとともにシノレに様々なことを教えるようになっていった。

白竜の撃墜という大事を起こしてしまった以上、教えられるだけのことは教える、そうしなければ危険だと言われた。


「それでは、始めましょう」


今回使うのは、手のひらに乗るほどの小さめの宝石箱だ。

華奢な首飾りなら一つ、指輪なら幾つか入るだろうそれの蓋を開く。

空っぽのその中に、一輪の花を入れる。

道中の庭で摘んできたらしいが、シノレには何の花か分からなかった。

数本でまとめられたそれらは細い紐で結われて、極小さな花束となっていた。


小さな音を立てて蓋を閉ざした聖者の指先から、ふわりと、細い糸のような力が広がる。

聖者はそれを操り、広げて、箱の周りに展開させていく。


例えるなら……何本もの糸を何重にも交錯させ、絡ませて、それを一気に両端に引く。

すると結び目が出来て、それが固く締まる。そんな感じだった。


「……このようにに力を施し、外部から開けなくすることを、封印と言います。

複雑な工程を経るほど封印は強固なものとなり、解く手順も煩雑になります。

エルフェスで貴方が開けた例の長櫃にも封印がかかっていました」


「……だったら別に、同じ要領で他のも開けられるだろうから良いんじゃない?」


「あれは力技で、錠ごと壊すようなものですから。

無駄が多いですし、残滓もかなり残ります。

効率の良い解錠を覚えておいて損はないでしょう。

……まずは簡単なものから。できたら、少しずつ難易度を上げていきましょう。

……中の花が切れないように、解いてみて下さい」


そう言われ渡された宝石箱を見つめる。

鍵などついていない、ただ蓋を閉められただけのそれだ。

試しに手をかけて、普通に開けようと力を込める。びくともしなかった。

物理的な力でこじ開けるのは無理そうだ。


意識を集中し、目を凝らすと、そこに先程の結び目がしっかりと結わえ付けられていた。

手で触れることはできない。

シノレも力を細く撚り、ある程度の強度を持たせて、重なった部分に差し込んだ。


そう言えば、昔誰かに細い棒を差し入れ鍵を開ける方法を教わった。

思い返すと、それにも近いのかも知れない。

固く締まった結び目のあちこちに干渉し、操っていく。

いつしか傍で見守る聖者の存在も忘れ、それに没頭していた。


どこがどう繋がっているか、どうすれば全体が解けるか、把握することが必要だろう。一つずつだ。

選んだ場所を緩め、引っ張り、そんなことを繰り返して少しずつ解いていく。

結び目も大分解れ、後数手で解けると、そう思った時だった。


(あ、)


気が緩んだのが良くなかったのかも知れない。

ぶつ、と何かが千切れた手応えがする。

鼻先に甘さを帯びた、青臭い匂いを感じた気がする。

失敗したと思った。しかし、一先ずそれはおいて解錠に集中する。


蓋が開く。その中に収められた花は、先程までとは打って変わって無惨に捻じれ、千切れていた。



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