楽団の記憶
眼下の惨状を思えば慎みだの清廉だの片腹痛いが、その辺りを正当化する論理も抜かり無く整えられているのである。
全く、宗教とは因果というか、現実と切っても切れないものだと染み染み思う。
その時、眼下で引き出される一人が転び、怒った様子の教徒がそれを打ち据えた。
鈍い音とうめき声が響き、絶望が伝染して広がっていくのがここからでも見えるようだ。
「……彼らは異教徒であり、教団への帰依も拒んだ。
その結果として今がある。
その帰結は、これまで教わった論理と合致します。
上辺だけなら分かるんです。
けれど今、実際に彼らを虐げているのは我らです。
これが、こうも無惨なものが神のご意思なのでしょうか。
彼らに救いあれと願うこと、それすら、傲慢に思えて――」
「……まあ、それでもね。
これでも教徒はましだと思うよ。
こんな真似をするのは許可を得た時だけで、教徒同士では互いに守り合うし、違反をすれば罰を受ける。
楽団領の酷さはこんなものじゃない。
あそこはいつでも、誰が相手だろうと、力さえあれば何をしたって許されるところだから」
生まれ育った場所、シノレにとっての古巣とも言えるその景色を思い描く。
誰もが血を振り絞り生存のために相争う。
血で血を洗う実力主義のみがあそこの法であり本質だ。
楽団領は大崩壊以後の世界の混乱を、最も色濃く受け継いでいる。
言い換えればその暗黒期から進歩していないということだ。
当然そこに住まう者たちも、頭まで血溜まりに浸かっている。
教団だろうと騎士団だろうと、あの連中から自領を守るために死物狂いで戦うのは同じだろう。
医師団はまた少し事情が違うというが――。
苦悩する少年を宥めながら考えていると、新たな気配が近づいてきた。
遠巻きにしていた付き人たちの中から一人が歩み出て、声をかけてくる。
「勇者殿。ああ、エルク様もご一緒でしたか。
……カドラス大司教がお呼びです。至急丘の城館へお越し下さい」




