表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/483

三十年前の戦い

「若様、何用でございましょうか?

私に聞きたいことがおありと伺いましたが」


「はいそうなんです!

三十年前の戦いについて、当時のことを聞かせてくれませんか?

今はこんな状況ですから、過去のことを知っておきたいんです」


「大変ご立派なお心がけでございます。

私にできる話であれば何なりと……

そうは言っても、三十年前というと私もまだ幼く、従軍したと言っても途中からのものでしたので、当初のことは伝聞になりますが」


「それで良いです!話して下さい」


「……僕からもお願いします」


出来心のような軽い気持ちだったのが、思わぬ相手がやって来たものだ。

ラザンはユミルを見、シノレを見、更に視線を往復させてから息をついた。


「……そういうことですか。では、まずは若様がご説明なさって下さい」


「はい?ど、どうしてです!?話を聞きたいから呼んだんですよ!」


「そうは仰いますが、もうとっくに習っておいででしょう。

他者に教えることも立派な学びですよ。

誤りがあれば都度修正致します。

勿論、あまりに多いようであれば当主様にご報告しますので」


「えー、そんなあ……」


……前から思っていたが。

使徒家の子どもというのは別に持て囃されて育てられるわけではなく、寧ろかなり厳しい基準を課されているようだ。

切り替えされた金髪の少年は、場を濁すように飲み物を口に運ぶ。

困り顔のユミルが考え考え、話し出した。


「今から三十年前――十六代目教主クローヴィス=セラフ=ワーレン様が御位におつきあそばしてから、数年後のことです。

その頃教団は、滅びの淵に立たされていました。

その切っ掛け、崩落の芽は最初、北部に生じました。

例年訪れる魔の月の攻勢、それがたまたま二年続けて教団領に集中したのです」


「ああ、それは……」


教徒たちはさぞかし動揺しただろう。

ほんの一月前のごたごたを思い出せば、容易に想像はついた。


彼らにとっては神への信仰こそ生きる支えであり、魔獣の大攻勢はそれを砕きかねないものだ。

相槌を打つシノレに、ユミルは更に続ける。


「北は混迷し、翌年も大規模な被害が出たなら、総崩れになりかねないところまで追い込まれたんです。

その上教団が弱ったと見て、聖地奪還を唱える異教徒たちが旗揚げしました。

更には西からブラスエガとワリアンドまでが攻め込んできて……各都市の寝返りもあって、このシアレット含む使徒家の領地は包囲されるわ、一時期は先代猊下の御兄弟までが捕虜に取られる有り様だったんですよ」


教団領は敵に囲まれ、三方から散々に食い荒らされ、踏み潰される滅亡の予兆が鳴り響いていた。

滅亡まで行かずとも、長きに渡る傷と弱体化は免れなかっただろう。


だが先代教主クローヴィスは並の人間ではなかった。

各勢力の内情と思惑を読み切り、巧みに情勢を操り、教団の全てを使ってかかる窮地に対抗した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ