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中立地帯レドリア

 都市レドリア及び、それに付随する地域一帯は、教団、楽団、騎士団の堺に三角形に広がるように位置している。

そこは現在の世界では稀有な、どの陣営にも属さない中立地帯であった。


ここに至るまではそれはもう様々者の思惑やら利害やらがあったのだが――それはまあ、今は重要ではない。

この一帯は元は騎士団領であり、楽団との緩衝地帯でもあったが、度重なる不義理を受けて騎士団から離れ独立した。


そんなレドリアの今日の姿は、賑やかに栄えた商業都市である。

人も物も出入りが激しく――其の実、各勢力の密偵や無数の謀略が跋扈する地であった。


表面的には活気があり賑やかなそこは、弓矢の代わりに情報、密約、賄賂、時には暗殺が飛び交う戦場なのだった。

使徒家の中では、主にセヴレイルやファラードと関わりが深い場所だ。


 この場所の大きな意義の一つ、それが異なる勢力との交渉の場としてのものだ。

交渉に際してどちらかがどちらかの縄張りに踏み入るとなると、心理的もしくは地理的不利を招きやすい。

場合によってはそういう交渉もありだろうが、話が拗れやすいので多くの場合避けられる。

微妙な力の均衡があったり、交渉場所で揉めている余裕がないことが殆どだ。

そうした危惧を消し、対等な立場で話し合いの席を設けたい時にここが使われやすい。


この中立地帯では非武装の掟が敷かれており、軍の通行も認められない。

他勢力の利害を巧みに操り、時には魔獣の襲撃に耐え、各方面に定期的に捧げ物をして。

レドリアはそのようにして生き延び、発展してきた。


 そのレドリアの某所で、今日もまた謀略の種が撒かれていた。

ある宿屋に男が入っていく。背が高く、ありふれた旅装束をまとっている。

灰色の外套をまとった背の高い姿は奇妙に儚く、まるで薄い影のようだ。

彼を認めた使者はすぐに立ち上がり礼を取った。

深く頭巾を被った男は、口元だけを見せて仄かに微笑む。


「まさか直々にお出で下さるとは……」

「当然のことだよ。私は君たちを、何より信じられる友と思っているのだから。人越しでは意味があるまい?」


「は、まことに……我らの長も、貴方様へは格別の親愛を向けておいでです。

今後とも、くれぐれも長く密接な協力関係を保ちたいと。

まして今、ワリアンドは最も注目すべき重要地点となっておりますから」


 ふ、と小さく息が漏れ、空気が揺れる。

笑ったのだと使者が気づいた頃には、男はもう口調を切り替えていた。

それは静かだが、微妙に熱の籠った口調だった。


「……大神官様は何と言っているかな?

いつも通りそのまま言ってくれ、礼儀は気にしなくて良いよ。

寧ろ大神官様のお言葉を直接聞けない方が嫌だから」


「ええ、それはもう――ワリアンドの首長に相応しきは貴殿である。

我らの神はそう告げている。協力と支援は惜しまぬ、一刻も早く統一せよ。

しかる後、教団に攻め入るのだ……そう言付かっております」


「ああ、勿論だよ。できる限り早く、兄たちを片付けて君たちの救援に向かおう。

私たちは大切な友人だ、助け合うのは自然の理というもの。

幸いご助言のお陰で、最近は何かと順調なんだ……

本題に移ろうか、具体的な部分を詰めよう。

まずはそうだね、バルタザールの動向から頼めるかな?」

「は……」


 その声は至って穏やかなものだったが、こちらに反駁を許さないような奇妙な険がある。

すぐにそれとは気付けない、毒の霧のような。何を受け答えするにも気が抜けない。

ロスフィークから遣わされた使者は、緊張を悟られまいとしつつ、密かに汗を滲ませた。

その彼の眼前で、金の指輪が鈍く光った。


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