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指輪を巡る争い

 これまでに二度に渡って繰り広げられた、総帥の子らの指輪を巡る無情な潰し合い。

その勝利条件は自分以外の全てを殺す、或いは無力化し、指輪を集めきることだ。


 その中で生じた傾向の一つとして、極端に年齢の高い者、もしくは低い者は狙われやすいというものがある。

年長者はその経験から警戒され、年少の兄弟の同盟からなる集中砲火を浴びやすい。

今代も例に漏れず、長男は序盤に倒れている。

年少者は言うに及ばず、付け入りやすい未熟者と見られ、年長者の片付けと並行して、先を争って狙われる。

そうした事情により現在の生き残りは、それらの中間にあたる者たちで概ね占められていた。


 裏を返せば、中間に位置せず、かつ一連の逆境を踏み越えて生き残っている者は相当の強運持ちか曲者というわけである。

ブラスエガの現頭領、次男アルデバランはまさにその権化と言えた。


「これはこれは。わざわざお前がやって来るとは。ああ、そう言えばもうそんな時期でしたか」


 総帥の二十七男バルジールは、その日朝一番で訪ねてきた相手の姿に、わざとらしく赤い目を見開いた。

場所はブラスエガの城塞、その廊下で待機していた人物は、それに無言の会釈を返した。

その身にまとうのはゆったりした黒衣であり、顔は銀色の仮面で覆われている。

その仕草も身なりからも、性別も年齢も何も判然とはしなかった。


バルジールは短く整えた栗色の髪を揺らし、淡々と使者に向き合った。

微笑みの一つでも浮かべれば優美と賞されるだろう面差しは、顔色の悪さと張り詰めた表情によって神経質なものに変わっている。

無難と言うべき灰色の装束を着込んだ姿は、どこか張り詰めたものを感じさせた。


「…………」

「俺の指輪の所在を尋ねに来たのでしょう?

前回言った通り、兄さんに預けたまま変わりないですよ」


 過去二度に渡って行われた継承戦の掟は、概ね踏襲されている。

今回新しく追加された特別条項もあるにはあるが、今ここでは関係のないことだった。

更に変化と言えば……かつては指輪を別所に保管したり隔離するのも戦術の一つだったが、

「指輪は指に嵌めるものだろう。愚かなことを」

という今の総帥の一声により、候補者たちは自らの指輪を指に装着する決まりとなったことだ。

それでは何故彼の指に指輪がないか。その答えを弾き出すのは簡単だ。


 兄に差し出したのである。


 継承戦を戦う兄弟の中では、それが契約における最大の担保であり、場合によっては服従の証とされる。

それもまた、伝統的なルールであった。


 更に言えば継承戦の間、彼らは常に己の指輪を身に着け、その所在を公表している必要がある。

それを確認するのが、定期的に訪れる総帥の使者だ。

今回もそのために来たのだろうと、彼はそう思ったのだ。


「ほら、見ての通り。疑わしいのなら兄さんにも確認すると良い。

それとも何か他に連絡事項でも?

最近は教団への対処で忙しいので、あまり時間は割けないのですが……」


 無言で待機する使者に、手をひらひらと振りながら答える。

実際その指には、次期総帥候補たるを示す金の指輪はない。


「……これでいいですか?それとも、まだ何か?」

「――――……」


 やっと、かすかな声量で答えが返ってくる。

聞き落としそうな掠れた、男とも女ともつかないしゃがれた声だった。

それにバルジールは眉を上げた。


「ほう。……うん、そうですか。

となればもう誰かの手中か……ふ、どうなっているのでしょうね。

いっそ市場にでも流れれば面白そうですが。

単純な財力勝負では少々品に欠けますかね……」


 面白そうな口調とは裏腹に、彼自身は上の空と言ってよかった。

現状では、あまり指輪のことばかりにかまけてもいられない。

サダンが教団に落とされれば彼の身も危ないのだ。

保身の術は考えているが勝てればそれに越したことはないのだし、さっさと執務に入りたい気持ちもある。

けれどこれはこれで中々ない機会なのは確か、もう少し粘って情報を引き出すのもありだろうか。

朝の廊下の真ん中で、バルジールは微妙な迷いを浮かべた――そんな時だった。


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