降って湧いた同盟
「――――妙なことになったものだ」
手順に則って届けられた、正式な大公からの書状。
それに目を通し、レイグは眉間にしわを寄せた。
「当主様、何かお気に掛かることでもおありで?」
「気に掛からないわけがない。
ここに来て、大公からの打診だぞ。
しかも随分と下手に出ている」
昔日ならばいざ知らず、今となっては大公家は単に「騎士団内部で一番強い家」であり、権威溢れる覇者ではない。
騎士団各都市は如何なる場合も大公家に臣従するというわけではなく、必ずしもその令に従うとは限らない。
これは楽団や医師団も同様であり、教主という長の元、強固な統一が為されている教団の形態の方が寧ろ珍しいのだ。
「……教団との長きに渡る友好と同盟を願いたい。
そのために人質を寄越す。要約すればそういうことだな」
そして寄越される人質とやらが、大変な難物であった。
大公家から寄越された書簡の内容を思い出す。
――我ら大公家は真なる神の威徳に打たれ、この先教団とのさらなる融和を望むものである。
それに際して我が妹をそちらへ遊学に赴かせ、聖者様直々に神の教えを受けたく云々――と記されている。
更に続くところによれば、傍付き数人の同行を許して貰えたなら、後はお任せするとある。
…………要は大公の係累たる姫君を、人質として、ほぼ丸腰で寄越すと言っているのだ。
ここまでされておいて要望を突っぱねようものならば、即座に交渉は決裂、宣戦布告一歩手前まで関係が悪化することは間違いないだろう。
それで楽団と手を結んで襲ってきでもしたら目も当てられない。
つまり、この要請を断ることはできない。
曖昧に言を左右して引き伸ばすのも、無駄に相手を刺激するだけだろう。
望ましくはない。
普通に考えれば、これは実に美味しい話である。
やって来た人質と聖者と会わせるだけで、異教徒との決戦において大公家の承認と助力を得られるのである。
これが悪い話であろうはずがない。
(だが、何と言うべきか……)
降って湧いたこの同盟に、彼は乗り気ではなかった。
この話を聞いて以来蟠っている胸騒ぎのような感覚を、明確に言い表すのは難しいが、敢えて言うならば……話がうますぎて気に入らない。
しかし、そんな漠然とした感覚で却下できるほど些細な話ではないことも確かだった。




