金の指輪
楽団の支配者たる現総帥が、その座に上ってから二十年余。
その間に、総帥の胤だと主張した母子は百を数え、その中で公的に総帥が我が子と認めたのは三十四名。
これまでの前例に漏れずその全てが男子であり、その半分以上は既に死去している。
生き残りの順番や名前など、誰も一々覚えてはいない。
総帥の息子たちはそれぞれ、父から与えられた金の指輪を持つという。
この指輪こそが、楽団を揺るがす後継者争いを象徴する代物だ。
遡ること百年前、楽団全土に覇を唱えた初代総帥の一言によってそれは始まった。
息子たちを集めた彼は、一人に一つずつ指輪を与え、そしてこう言い渡した。
「殺し合え。最後の一人になるまで。
その証として、全ての指輪を揃えて推参した者を我が後継と認めよう」
かくして、凄惨な継承戦が幕を開けた。
兄弟たちの血に塗れた指輪を以て証を立て、総帥の座に上ったのが二代目――先代の総帥である。
そして五十年前に覇を唱えた二代目も、これとそっくり同じことを行い、更に三代目にあたる現総帥が立った。
そして彼もまた息子たちに金の指輪を配ったとなれば、これが何を意味するかは明らかだった。
疾うの昔に火蓋は切られているのだ。
現在の楽団首府オルノーグは総帥に支配されており、他五州にはその子どもたちが散らばっている。
総帥が我が子として認知した男子は三十名余り、そのうち今日まで生き残り、かつ確固たる地盤を築き上げている者は次男、十四男、十六男、十八男の四名だけだと聞く。
現状を整理すると、ブラスエガとナーガルはそれぞれ、次男と十八男が君臨している。
次男は弟の一人である二十七男を傘下としており、地境付近の統治や戦線を任せているようだ。
ワリアンドではその地の支配権をめぐって、十四男と十六男が争いを繰り広げている。
グランバルドは総帥と関わりのない者が統治しているが、最近は内紛の予兆が出てきているそうだ。
ツェレガは現在頭を失い、内部争いの真っ最中だが、ここに息子の誰かが関与しているという噂も聞く。
白竜の余波で落命した前頭領もまた総帥の子であったが、次もそうなるかは不明である。
残りの息子たちは最近目立った噂を聞かないが、潜伏の上暗躍しているようだ。
死んだという知らせは聞かない。
教団もまた、三代に渡り楽団に君臨したその血筋と何度となく争ってきた。
ファラード家の情報網は広く緻密だ。
更にリゼルドの手の者も配して裏付けを取る。
情報は正確を期している。
五年前の事件から勃発した争い、教団の威信と地境の安定を巡って対峙する敵。
現在の敵であるブラスエガに陣取る次男と二十七男こそが、リゼルドが下さなければならない相手であった。




