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後始末

「ラーデン、ルドガー。後は好きにしていいよ」


 リゼルドは去り際に、そう言い残した。

外で待機していた彼ら兄弟は、それに応じて頭を下げる。

リゼルドは振り返りもせず、青髪の奴隷と一緒に去っていく。

その大分後ろを、黒犬が尾を揺らして続いていった。


中での騒ぎや問答はここからも聞こえていた。

リゼルドは「二人で話そう」と、そう言った。

だからついていく必要はないし、そうすることは許されない。

三つの影が階段を上がっていき、完全に姿が見えなくなったのを確認して、静かな横顔のラーデンが足早に踏み入っていく。

彼らは滅多なことでは目を合わせることもない。

兄の後ろ姿を何とも言えない憎悪の滲む目で見届け、少ししてからルドガーも地下の酒場に踏み入った。


 中は酷い状態だった。

至る所にあらゆるものが散乱し、料理や酒もぶちまけられて倒れた男たちの血と混ざり合っている。

中にいた人間は多くが倒れ伏していたが、怯えた様子で壁際に固まっている者たちもいた。

倒れた者たちは殆どが満身創痍で、手足が不自然な方向に曲がっていたり、食い千切られている者もいる。


ラーデンはそこに屈み込み、重傷者から淡々と応急処置を施していた。

それらを避けながら進み、奥へ向かって呼びかけた。


「ロナン。大丈夫か」

「は……はい。少々深傷を負いましたが……」

「見せてみろ。怪我をしているのは……腕か。

……あの当主が、手加減をしたのか?」

「いえ。最初は、喉を狙った軌道でした。咄嗟に腕で庇ったので、これで済みましたが」


 負傷はしたが殺されてはおらず、受け答えもしっかりしている。

難所を越えたことを感じ、僅かに安堵した。

更に部隊長への繰り上がりという成果まであった。

上々と言うべき結果だろう。


 歩みを進める中で、元部隊長の体にぶつかった。

邪魔だったので足で転がすと、悲鳴混じりの潰れた声が上がった。

その声には苦痛と、恐怖が多分に滲んでいる。

それにルドガーは蔑みの目を向けた。

自分より弱い者を喜々として甚振る奴ほど、自分がそうされた時に折れるのが早い。


 一応は彼の望み通りに踊ってくれたとは言え……それにまつわる諸々の狼藉を思えば、許せるものではなかった。

踏みつけるとまた呻きが響き、何人かの声と重なって重奏のように響いた。

それにロナンは、ゆっくりと噛みしめるような口調で呟く。


「あれが、当主様ですか……」

「そうだ。……医療棟に行く。歩けるか?」

「はい、問題ありません」

「そうか、何よりだ。

……しかし、良い時機で切り上げられたものだな。運が良かった」


 周囲に聞こえないくらいの声で語らう。

途中でサウスロイが戻ってきたのは、彼らとしても思わぬ幸運だった。


先代当主とリゼルドの親子二代に渡って気に入られた稀有なる奴隷。

後はあれに任せておけば、リゼルドが今後この一件を思い出すこともないだろう。


「奇しくも、お前の階級を上げることもできた……それを思えば、こいつはもう必要あるまい」

「ここで、処理なさるのですか?」

「……規律に反する者を見せしめにするのも、一つの方策だ。

こんなところで殺しては効果が薄れる。

最低限の手当だけはしてやれ。

後の連中はお前がうまくまとめ上げろ。

心配しなくても、大分扱いやすくなっているはずだ」


 自分たちは甚振る側ではなく甚振られる側だと、嫌と言うほど思い知らされたであろう連中の姿に目をやる。

続いて目を向けたのは、壁際で息を殺していた者たちだ。

目立った負傷がないところから見て、彼らはリゼルドに襲いかからなかったのだろう。

その顔を確認してから、懐から硬貨の入った小袋を取り出した。


「突然騒ぎを起こしてすまなかったな。

些少だが、詫びの気持ちとして受け取ってくれ」


 ざらりと硬貨の溢れる音が重なり合い、その場に不思議と澄んだ響きを奏でた。


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