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青髪の男

 十分後、そこには傷だらけの男たちが累々と積み上がっていた。

横転した卓の上に座ったリゼルドは、こつこつと踵を鳴らして呼びかける。


「おいで、フェーバ。お前も良くやったねえ、偉いよ」


 黒い毛並みの忠犬は微妙に後ろ脚を引きずりながらも、主人の足元に馳せ参じる。

リゼルドはそれをにこやかに迎え、飼い犬を労った。

手近な男の足を持ち上げ、刃物を突き入れると悲鳴が上がる。

構わず肉を切り取り、手ずから飼い犬に与えてやりながら、リゼルドはうんざりした心境だった。


懲罰は恙無く終えたものの、こんな顛末では白けるしかない。

ああ下らない。

こんな十把一絡げの捨て駒どもを這いつくばらせたところで面白くも何ともない。

笑顔の裏で、リゼルドの不機嫌は加速する一方だった。苦痛のうめき声と喘鳴だけが響く中で、不意に視線を感じたリゼルドは一人の男に目を留めた。


 先程犬をけしかけた副官だった。濃い茶色の髪は乱れ、傷口を押さえながら荒い息を吐いている。

苦痛のためか脂汗を流しているものの、よくよく見れば面構え自体は悪くない。

殺す気でいたのだが、それを見て少し気が変わった。

最初は部隊長を生かし、副官を見せしめにしようと思っていたが、これなら逆転させても良い。


「お前、名前は?」

「……ロナンと、申します。此度、隊長の蛮行を差し止められず、申し訳ございませんでした」

「そう、ロナン。じゃあお前をこいつの後釜にしてあげようか。

これから朝昼晩、一挙手一投足に至るまで、常に僕に従える?」

「は、い…………従い、ます」

「そっか、分かった。これから宜しくね」


 口調は丁重、表情に畏怖はあるが闘志そのものは消えていない。良い状態だった。

応答に満足したリゼルドは足元の、先程まで部隊長だった男の体を踏み躙り、いよいよ処分に入ろうとして――新たな気配が出現したのはその時だった。

血腥い陰りに沈んだ場所に、明るく華やいだ声が響き渡った。


「――これは御主人様、此度はどのようなご趣向で?」


 いつの間にか出入口の付近に、道化じみた派手な装いの、青髪の男が佇んでいた。

その瞬間、青い目に散っていた殺気は綺麗に拭い去られた。

代わりに喜色が浮かび上がる。


「……サウスロイ。帰ってきたんだ」

「ええ。……不在の間に、配下がどうもご迷惑をかけたようで、お詫び申し上げます」

「全くだよ~奴隷の分際で主人の手を煩わせるなんて」

「お許し下さい。甘やかしすぎたようです」


 言葉とは裏腹に、その表情は楽しげだった。

リゼルドは喉を反らして一頻り上機嫌に笑ってから、「惜しいことしたかも」と含み笑う。


「お前が戻ってくると知っていれば、こんな捻りのないことしなかったのに」


 くすくすと笑いながら、

「おいでよ。二人で少し話そう?」


 そう誘いかけて、出口に足を向けた。

その時には完全に、周囲の惨状など忘れ去っていた。




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