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躾直し

 一方、教団北部の戦線は緊迫した状態だった。


竜関連では流石に動揺もあったが、相手もさるもの、すぐに立て直して反撃してきた。

だがこの好機、攻め立てない手はない。

騎士団はいざ知らず楽団の戦は、一度敵対すれば皆殺しが基本である。

だから上から下まで、死に物狂いで抵抗する。


 刻一刻と移り変わる戦況から手が離せない。

――だから、下らないことに時間を割きたくはないというのに。


 常よりも大股の歩調は荒々しい靴音を響かせる。

地下へ続く階段を降りていき、現れた扉に手をかけて、リゼルドは勢いよく開け放った。


 突然の乱入を受けて、暗がりがどよめきに揺れた。

そこには幾つもの卓が立ち並び、内一つに男が数人たむろしていた。

何か賭博でもしていたようだ。

リゼルドはそこにつかつかと歩み寄り、「ちょっといい?」と笑いかけた。

それに代表格と思しき大柄な男は、胡乱げな目を向けた。


「誰かと思えば大将かよ。どうかしたんすか?」

「どうもこうも、お前が進駐先で色々したって聞いたからさあ。それについて話しに来たんだよ」


 事の起こりは数日前だ。

指揮を執っていたリゼルドの元に、報告が上がってきた。

彼に預けた部隊が進駐した先のある街で、少し見逃せない域の狼藉を働いたというものだから、警告に来たのである。


「お前の元気なところ、僕は好きだけどさあ。

無節操は良くないと思うんだよ。

ちょっとは大人しくしときなね?

異教徒相手なら大体のことは目溢しされるとは言え、やっぱりあんまりお行儀の良いことじゃないからさ」


「負けた敵なんかどうしようとこっちの勝手だろ。

士気高揚になって次にも繋がるってもんだ。

大将自身がいつも言ってるじゃねーかよ」


「ああごめんねはっきり言ってあげないと分からない?

僕の命令が聞けないなら殺すから」


 笑ったまま、後ろの犬に爪先で合図を送る。

飛びかかったのは部隊長――ではなく、傍の副官だった。

目にも止まらぬ速さで飛びかかり、肉の一部を食い千切る。

叫び声が上がる中、濃い血の匂いが広がった。


「……主人にちゃんと従うって、犬として大事なことだよねえ。そう思わない?」

「思わねえ、な!!」


 ぎゃん、と黒犬の鳴き声が高く響いた。

近くにいた男に蹴り上げられ、壁際まで飛ばされる。

リゼルドの方もいつの間にか、彼は何人もの屈強な男たちに囲まれていた。

穏やかならぬ空気の中、少年は冷笑を浮かべて対峙する。


「近くで見るとほんと子どもだな」

「お付きも連れずこんなところまで来て、危険だとは考えなかったのかい?」


「…………言ってろよ、屑石どもが」


 こんなことで主君の機嫌を損ねたらどうしてくれるのか。

教団の軍の体裁は、こんな連中に責任を負える話ではないのだ。

そもそもこんな男、あいつが戻るまでの繋ぎでしかないというのに――調子に乗らせたのは、彼の失着だった。


 リゼルドは北面の総大将だが、若干十代の少年である。

おまけに見た目だけは繊細な、ともすれば男装の少女にすら見えかねない容姿のため侮られやすい。

禄に交流することもない末端ならば尚の事だ。

……だから、支配者が誰であるかを定期的に知らしめる必要がある。


 飼い主の手を噛む犬など必要ないのだ。躾直しは主人の義務である。


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