大公からの打診
「例年のことではありますが……魔獣の被害で楽団の内部が荒れているとあっては、いつ火種が弾けても不思議はないですね。
気を抜くことなく、一層の警戒と注意を払うように伝えて下さい」
楽団の規模と力は強大だ。
各州を統べる六大都市、その一つだけでも教団と、他勢力と渡り合えるほどの力を有する。
その楽団が分裂するとなれば、その被害は内部だけに留まらないだろう。
教団からすれば、すぐ隣で巨人がのたうっているようなものだ。
巻き添えを喰らわないためには、最大限の注意を払わねばならない。
何より、楽団の中枢たるオルノーグ、その総帥府の玉座。
そこに誰が座るかで、教団の対処も変わってくる。
目まぐるしく移り変わる楽団の情勢は、一瞬たりとも目を逸らせない事柄であった。
現在の総帥は、それなりに教団に友好的な姿勢を取っている。
楽団である以上決して信は置けないが、暗に互いの利権を認め合ってきた。
だが、その次はどうなるか――……教主は冷えた目で考えを巡らせる。
更に細かく各所の状況を確認し、そこから持ち込まれた幾つかの報告と相談を捌く。
大方話が片付いたところで、教主は聞きたかったことについて切り出した。
「……それから、聖者様のご容態は?その後お変わりはありませんか」
「……今朝方エルフェスから届いた報告によりますと、最近になって起き上がれるほどには回復なさったそうです。
ただ暫く寝たきりで、体力が落ちているであろうことも鑑み、やはりまだ長距離の移動には不安があると……」
「……それはまあ、致し方ありませんね。
それでは、落ち着いたらすぐにでもこちらへ戻らせて――」
「いえ、それが少々難しいようでして。
と申すのも、セヴレイル家からの報告がございまして…
…今回の聖者様の御業を受けて、大公家が内々に同盟の打診をしてきたようです」
「……何ですって?」




