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教主レイノス

 ――こんなものでは埒が明かない。

レイノスはいつもの笑みと所作を崩さぬまま、エルフェスから戻ってきた返書を伏せて置いた。


それは意識が回復した聖者が真っ先に手を付けたものだそうだ。

見慣れた字の線は、以前にもまして細って震えたものとなっていた。

中に綴られているのは当たり障りがなく、見飽きたような美辞麗句で核心を誤魔化した、空々しいだけの文章だ。

机に置いたそれから手を離すほんの一瞬、その指先に僅かな苛立ちが滲んだ。


 あの夜から、教団を取り巻く状況は一変した。

その様は見る者によれば、在りし日の大公家のようにも見えるかも知れない。

あの白竜の一件で教団は、魔獣に対して比類なき力を保有することを示してしまった。

そうなれば、その傘下に入り守ってもらいたい者たちが群がって来る。


 実際に神の加護であるかなどどうでも良い。

教団に帰属すれば魔獣を恐れずに済む、それが重要なのだ。

周辺地域と緊張とともに睨み合っていた状態から一転して、教団にすり寄る者たちは日に日に増えていた。

これまで他勢力との間で日和見していた者たちも、こぞって教団の傘下に入りたがる始末だ。


それらの情報を集め、裏を取り、取捨選択し、適切な対応を指示する日々がこのところ続いている。

面倒な限りである。

そもそも先代が獲得した領土の統制も未だ終わっていないのだ。

教団はその性質上、一度同胞として受け入れたものを見捨てることはできない。

だから考えなしに拡大しても、その先に待つのは自滅のみである。


レイノスは自分の代で版図を広げたいなどとは更々思っていなかったし、その必要も感じていなかった。

だが、こうなっては仕方がない。

時期を見て適切に対応していくしかないだろう。


「猊下、ご報告に参りました」

「……どうぞ。丁度書類が一段落したところです。

何かありましたか、グレーデ」


「ファラード家から最新の報告が参りました。

主に魔の月の被害状況に関してですが……以下、ソリス殿からの報告です。


 まず医師団は、トワドラ以東はほぼ壊滅状態。

実際に竜の被害を受けた都市は生き残りもほぼいないような有り様です。

それに加えてトワドラは殆ど復興への支援を行っておらず、多くの都市が猊下の慈悲を願っております。

さしあたってはシュデースとファラードに対応させ、吟味を行っておりますが、猊下から指示がありましたらご命令をとのことです。


そして楽団ですが、北側のツェレガが多大な被害を受けまして、長が殺されたことで内乱に突入しました。

暫くは落ち着く気配はないそうです」


「……となれば、ブラスエガとの争いについても考慮する必要がありますね」


「仰る通りです。

ツェレガの横槍がないとなれば、ブラスエガは存分に医師団の支援を受けることが可能になります。

特にここ最近は厄介な薬物が提供されているそうで、リゼルド殿も圧力をかけてはおりますが……

どうも、膠着に陥りかけているようです。


そして、オルノーグ。

総帥の統べるこちらでは、順調に復興と経済の回復が進められています。

医師団とも連携を取っているそうで、昔ながらの付き合いが活かされている形でしょう。

更に南のワリアンド、ナーガル、グランバルドは魔獣の被害は軽微であり、目立った動きも出ておりません。

ただベウガン地方の守備の関係上、ワリアンドに対しては何かしら手を打つ必要があるでしょう。

現在は州の覇権を巡って総帥の息子たちが争っているようですので、内部争いを長引かせるべく諜報工作を進めております。


 ……騎士団は良くも悪くも通常通り。

最も魔獣の被害が軽く、しようと思えば今からでも他所と戦端が開けることでしょう」


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