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断絶

惨劇の舞台を思い返す。

子供の甲高い泣き声、親の悲痛な命乞い。

それら全てを押し潰す、悍ましい哄笑。


生きるためではなく享楽のために、人間はあれだけの邪悪を尽くせる。

それはとうに分かり切っていたことではあるが、結局どこも変わらないのだなと妙な諦念を感じた。

この世の中に今時、碌な娯楽などありはしない。

教団領では発散できない衝動をぶつける相手としては、成程異教徒が最良だ。

身内を守る上でも、団結を図る上でも――。

「……今の状況を見ても、教祖ワーレンの主張は、情勢や人々の事情と上手く噛み合ったんだと思う。

当時において一神教は異端だったけれど……諸々の付随物は措いておくと、その本質は贖罪だからね。

こんな世の中で、生きていく苦しみに意味を与えたのは大きかったと思うよ。

それで教団は、僅か二百年で他と並び立つまでになった。

そして一神教であるからこそ、規模が大きくなるほど、他教への敵意も激化せざるを得ないんだろうね」


語り終え、一息ついた頃にはエルクの顔は真っ青になっていた。

その顔を見て僅かに頭が冷え、自分は何を言っているのかと情けなくなった。

対話を持とうと言ってきたのが向こうとは言え、これではまるで八つ当たりではないか。


白けたような、それでもやや胸が痛むような、妙な気分になってくる。

一際強く感じたのは、自分と彼ではあまりに感じ方が違いすぎるという断絶だった。

これだけのことを聞かされれば、もう教徒と違ったものの見方を知りたいなど、二度と思わなくなるだろう。

これきり話をすることもあるまい――それがお互いのためだ。


辛いばかりのものなど見る必要はない。

周囲が創り上げたやさしい籠に閉じ籠もっていれば良い。

実際それはある意味何より幸福なことで、それを享受できる者は世界を見渡したとて決して多くない。

そうした生き方がこの少年のためだと思うし、何よりシノレ自身の平穏のためであった。


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