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竜を屠る

 北西の方角から、何かが来る。

その予感に息を潜めた。

あの日の夢からずっと感じていたそれを、本当に、今までで一番近くに感じる。刻々と近づいてきている。

ここまで近づかれれば、見えなくても感じ取れた。圧倒的な、暴力的な力の気配……竜の気配だ。


 上空には今にも落ちてきそうなほどの、明るく巨大な満月が上り詰めようとしている。

それを見上げていた聖者は、ややあって口を開いた。


「………………竜が再び生まれた。そこまで、それほどまでに世界は歪みかけている……ですが、シノレ」


 断罪するように、神託を告げるように。

重く押し潰されたように言葉を発する聖者は、何だろう。

酷く何かに絶望したような目をしていた。


「シノレ。恐らく、貴方ならできるでしょう。


ただの一瞬で、あの竜を屠ることが。


……どうあっても、教団領を蹂躙させるわけにはいきません。

あの剣を、こちらへ持ってきて下さい」


「……ごめん、持ってきてない」

「呼んで下さい。今ここへ。できるはずです」


 そう言われて、意識だけ広げてみると呆気なく剣は見つかった。

元々あれは、相当強烈な波動のようなものを放っているので、わざわざ探らなくても捕まえられるのだ。

すぐに意識に引っ掛かったそれを波長を合わせて手繰り寄せ、ここまで導こうとする。

すると見覚えのある剣が手の中に現れた。

ずしりとした重みに、何よりその威容に気圧されそうになる。


 黒黒としたそれは月光を浴びて濡れているかのようだ。

美しいがどこか禍々しい。

どくどくと、脈打つような力の拍動を感じる。

集中しているとそれは、知らない調べを奏でだす。

知らないはずなのに、それをずっと前から知っていたような気がするのだ。


「――――……」


 聖者も剣を見つめている。

ややあって手を伸ばすが、すぐに何かに気づいたように体ごと手を引いた。

何か得心したような顔をしている。


「……正当な所有者以外に触れられると、相手を呪う特性があるのですね。

だから封じるしかなかったと……これからは、みだりに人に触れさせないようにして下さい。

ですがまあ、今は良いでしょう。ここから竜を討伐します」


「……近づいていると言っても、まだまだ届く距離じゃないと思うけど。

それもお得意の力で何とかするの?」


「ええ。竜がどこにいるかは、問題ではないのです。

貴方はこの剣の主だから。

……きっと、竜を感知して目覚めたのだろうから。

力だけ渡せば、後は勝手にしてくれます」


 目を閉じて、そう促して再び手を伸ばし、剣ではなく、それを持つシノレの手に触れた。

整った顔が近づき、額同士が重なると、そこから大きなうねりが広がった。

耳鳴りのような感覚とともに、剣の波動が大きく膨れ上がる。

聖者の気配を近くに感じる。

互いの息遣いが徐々に近づいて、重なっていくのを感じる。

呼吸が一致したところで、聖者の力がシノレに触れた。

シノレの力を受けて、緩やかに、導くように剣へと流していく。

剣は殆ど燃えるような手触りとなり、中心で何かが蠢いている。


 不意に、それが牙を剥いた。

何か得体の知れない化け物が大口を開けて迫ってくる、そう錯覚するほど貪欲に、シノレから流れ出した力を奪っていく。


「…………っ!」

「シノレ」


 聖者の声に集中して、意識を持っていかれないよう堪える。

そうする間にも喰らい尽くすようにシノレの力を奪っていく。

無数の火花を散らしてどこまでも、どこまでも小さく凝縮されていき。


 そして、爆ぜた。


 ――遠い北西の空でその瞬間、突如出現した閃光の柱が白竜ごと空を穿った。

近くからは光が織り成す天の階に、遠くからは巨大な流れ星のように見えたそれは、生き物のように尾を引きながら夜空の果てに消えていった。

後には細くたなびいて散っていく、光の屑が空に残るだけだった。


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― 新着の感想 ―
これやばくない? 教団だけじゃなくて 世界中の権力者たちはシノレを手に入れるか殺すかの二択 そしてその二択なら殆どの人間は殺すを選ぶだし つまり世界中と敵に回すようなもの
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