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漆黒の剣

 聖者が倒れたということは、極一部の者たちの間で内々に共有され処理された。

一日経っても意識を取り戻す気配はなく、北で暴れ続けている竜の今後もまるで読めない。

周囲が放つ、突き刺すような張り詰めた空気に、シノレも流石に消耗していた。


 だからだろうか。その次の夜、シノレはまた奇妙な夢を見た。

見覚えのない、暗く広い空間に、幾つか見覚えのある品が陳列されている。


その光景に、ああここはベルンフォードの所蔵品が仕舞われているところかと合点する。

多種多様、形も大きさも様々なそれらが所狭しと並ぶそこを、縫うように進んでいく。

明かりはないのに足元や行く先、周囲にあるものが、その細部までもはっきりと見えた。

宝に疎いシノレにも、それらに凄まじい値打ちがあることが分かる。

まるで生きているかのような存在感すら感じさせるそれらが、己こそがこの宝物庫の主人であると主張するかのように端座していた。


それでも、自分をここまで惹きつけたものが何かはすぐに分かった。

それは奥の奥、通常なら目立たないだろうその場所に、王者の如く傲然と鎮座していた。


(ああ。あの、長櫃だ)


 どうしてだろう。

これに、ずっと呼ばれていた気がするのだ。

闇の中でも異彩を放つような漆黒。

辺りの豪奢な雰囲気すら染め替えるような、圧倒的で異様な圧を放っている。


 いや、箱ではない。この威圧感を放つのも、シノレを呼ぶのも、その中で眠る何かだ。

そう気付いた途端、周りを封じていた革細工が音もなく、ひとりでに解けて滑り落ちた。


 力が、流れ出す。

これまでの修練の甲斐もあってか、水が低きに流れるように、何の抵抗もなくシノレから滑り出した。

櫃の周りを探るように漂い、やがて一点に集中した。

ぎりぎりと、軋むような感触で抵抗される。

気を抜くとじわじわ押し戻されていくのが分かる。


 轟々と唸りが聞こえる。

勝手に渦を巻き始めた力に、術者であるはずのシノレ自身が引き摺られていた。

無意識にそれに合わせて息を吸い、一気に押し込んだ。


「――――!」


 ばちんと、何かが外れた手応えがあった。

手を触れてもいないのに、長櫃の蓋は勝手に持ち上がっていく。


 そこにあったのは剣であった。

黒い、夜の闇よりも黒いのに、その底に全ての光と色彩を秘めているかのような剣だった。


精緻に飾られているがこれは装飾用ではない、命を奪う力を持つものだ。

美しいがどこか禍々しい。


シノレは思わず息を詰まらせる。

この空間の王者のように傲然と聳えるそれに善悪はなく、ただどこまでも純粋な力だと、そう感じた。


 呼んでいる。ずっと呼ばれていた。剣と、自分の中の何かが共鳴し合っている。


 導かれるがままに、それに手を伸ばした。


「シノレ――――シノレ!!!」


 鋭い、叫びのようなその声に、はっと意識が覚醒した。

途端に周囲が一気に鮮やかなものになり、そこが夢の中などではないと知る。


こちらの腕にしがみつくような格好で、青い顔をした聖者が覗き込んでいる。

少し距離をおいたところでは数人の使用人がたむろして、不気味なものを見るようにシノレを見つめていた。


シノレは少しぼうっとする。手足が怠い。

服は寝間着のままだ。

胸元には就寝前に外したはずの護符が揺れている。

場所は見覚えのない、どこかの大廊下だった。

窓越しに見える空はやや明るいが、まだ夜は明けきってはいない。


 そして手の中には、あの剣があった。

それを認め、自覚した時、思考が追いつかずについ呟いた。


「……え、なんで?」


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