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聖者の光

 悪い知らせが飛び込んできたのは、それから五日後のことだった。


 この数日はずっと辺りがざわついている。

端で見ているシノレも、これは良くない気がすると眉を寄せる。


楽団ではお馴染みだった、嫌な予兆のようなものがある。

もう魔の月も残すところ三日、シノレも徐々に部屋の外を歩くようになっていた。


 事の起こりは六日前だ。教団の南西部、楽団領との地境付近で起こったことだった。

例年のことだが、その辺りは北から雲霞の如く魔獣がなだれ込んでいた。

その対応に追われる間に不運にも雨が続き、対策する間もなく大規模な土砂崩れが起こったのだ。

その先がまた運悪く街道で、土砂によって行く手が塞がれるという事態が起こった。


これによって、南西のベウガン地方が教団領から孤立してしまった。

魔獣と楽団の二重の脅威に晒された中で、孤立し救援の届かない状態は非常に脆い。

目下の課題は、これにどう対応するのかだった。


誰も不安を口には出さない。

それは教主への不信を表明することと同義だからだ。

それでも、いや表に出せないからこそ、根深く巣食って広まるものがある。


 そんな中で相変わらず聖者は、暗雲の中の光と目されていた。

聖者の通った道に触れる者や、聖者の世話をして羨望を浴びる使用人や、そんな光景を見かけることは何度もあった。


どんな些細な形でも、聖者と関わりを持ちたいと願う者は後を絶たない。

城内でもこれなのだ。

城に向かって跪拝する者は、きっと数え切れないほどいるだろう。


「そこで一つお願いがございまして……

明朝、聖都より報せが参りました。

つきましては聖者様からこれを発表して頂けるでしょうか。

それからもし宜しければ、城の露台から御顔なりお見せ頂き、皆の心を慰撫して頂きとうございます」


「……はい。勿論です。

ご遠慮は無用です。

私にできることがあれば、何であれ力を尽くしましょう」


 その日城には情報と方針を共有するために、城下から有力者たちが集められていた。

ここで語られたことは瞬く間に街中に広がるだろう。

その席に招かれた聖者は、当然のように上座に導かれた。


 広間全てを見渡せる位置、他より一段高い席に端然と座った聖者は、深い慈愛の籠もった目で辺りを見回す。

光を投げかけるような眼差しが降り注ぎ、僅か数秒で不安げなざわめきは収まった。


片隅にいたシノレにも具に感じられた。

誰もが聖者と目があったと感じたかのように動きを止め、息を潜めて、その言葉を待った。


「どうか、御心を平らかに。

私がついております」


 染み入るような柔らかい流れが、その唇から溢れ出す。

一度目を伏せて、聖者は本題を切り出した。


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