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火薬と力と魔獣

 火薬が発明されたのは、今から五百年ほど前のことである。

楽団のさる研究者によって、硝石や硫黄やらの混合物が、燃焼の際に強い爆発力を生み出すことが発見された。

それが武器に転用されるのは必然だったのだろう。

そう時間をかけず、戦場では爆弾の類が飛び交うようになった。


 その間にも研究と進歩は止まらなかった。

どういった原理であるのか、最良の配合は何か。

そして何より、どのように扱えばより効率的に敵を滅ぼせるか。

改良に改良を重ね、所謂大砲の元となる前身が作られたのが三百年前だ。

当時は重く扱いづらいものとされていたが、その可能性に着目した者たちによって、稀に見る短期間で実用化・効率化への道が開かれた。


 大砲が備える射程、またその圧倒的な火力は、その運用に絶大な費用がかかるにしても、他に代えられない価値を持っていた。

特に注目されたのは、それは迫りくる魔獣の群れを一気に討ち滅ぼせる代物であったことだ。

それ以来魔獣の襲撃が激しい期間は、壁を強化し、大砲を設置し、人を集めて籠もることが主流となった。

無論それはそれなりに豊かな者にしか許されない力であったが。


 また、人間の争いでこれが持ち出される場合は殲滅戦の合図である。

財も命も一切合切奪い、全てを更地にして攻め滅ぼすと意思表示することになる。

敵に大砲を向けるとはそういうことだ。

そしてこれの台頭によって、剣によって覇を唱えた騎士団の衰退は決定づけられた。

まして南に位置する騎士団は、その原料を自前で揃えることもできなかったのだから。


 時には魔獣を打ち払う武器として、時には人間同士で行われる殲滅戦の象徴として。

その黒光りする巨大な筒は、善悪いづれの意味においても、他の追随を許さない猛威を振るってきた。

そんな大砲は今日も今日とて、地鳴りのような轟音を響かせている。


 朝からずっと、重く轟くような砲声が遠くから聞こえてくる。

だがその轟音は半刻もせずに止んだ。

この感じからして、それほど大規模な襲来ではなかったらしい。

シノレは小さく息をついた。


 聖者の言っていたことは本当だった。

シノレがどれだけ力を操っても、僅かな異変の予兆もなかった。

意識を集中させて波紋を広げても、広がり切る前に戻ってくるのだ。

首にかけた金色の護符を見つめた。

放出した力は、ほぼ全てがここに集約される。

お陰でシノレは言いつけ通り、憂いなく修練に励むことができた。


 シノレは元々、魔の月やその前後には決して力を使うことはなかった。

そんなことをすれば、一時的に窮地を脱したとしてもすぐに行き詰まることが目に見えていたのである。

それがこの力の洒落にならない弱点――魔獣の攻撃の標的にされる確率が跳ね上がる点である。


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